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私には、自分の身に何が起こっているのか、この状況を飲み込むことがやっとだった。
今日は職と大切な人を両方失った。ついでに住むところも……。
何だか自分が誰にも求められていない、ダメな人間のような気持ちになっていく。
寒くも暑くもない曇り空だった。私は百貨店の屋上にある何とかガーデンという人工的な庭に出て、白いガーデンベンチに腰を掛けると、ぼんやりと小さな子どもたちが芝生の上を駆け回っている様子を眺めていた。
相変わらず思考は回らず、ストップしたままだった。ただ、目の前で遊んでいる親子連れの顔ぶれが入れ替わっていくのを眺めていた。
ふいに鞄の中の携帯が鳴って、もうお昼の時間だと気が付いた。
着信の相手は兄だった。
「美鈴。ちゃんと飯食ったか?」
そうか。今朝のことを心配して電話をくれたんだ……。
「お兄ちゃん……ごめん、私……ダメかも」
ああ、何を言っているんだろう。 まるで死ぬような言い方だな。
そんなに思い詰めているわけじゃない。……多分。
芳樹のことも仕事のことも、何も実感が沸かないけど、きっと私に原因があったのだろうとは思う。だから、ただ自分がダメな人間なのかもしれない、と言いたかったのだ。
だけど、電話の向こうではかなり焦った様子の兄の声が響いた。
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