1・出会い

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 微笑み以上の笑顔になると、その綺麗な顔に愛嬌が加わって優しい表情になり、思わず私もつられて微笑んだ。 「ああ、良かった。笑ったね」  誘い笑いだったのだろうか? 男性はホッとしたような表情になった。  随分と心優しい人だな、と思った。ちょっと顔色が悪い人がいるだけで、そんなに心配してくれるんだ。しかも超美形の男の人。世の中にはそんな人がいるんだな……。  そんな温かい気持ちになった途端に、目の前の景色が滲んで頬を涙が伝っていた。  お日様のような暖かみのある笑顔だった男性の表情が曇り、「大丈夫?」と心配そうに私の顔を覗き込んだ。  私は慌ててハンカチを出して涙を拭くと「はい……」とだけ言って、立ち上がってその場を去ろうとした。だけど、私が歩くのを制するように男性も立ち上がって私の肩を軽くポンポンと2回手を置いた。 「良かったら、話してみて」  男性に促されて、思わずもう一度座ってしまったけれど、涙は止まることが無くて溢れ出すばかりだった。この見知らぬ人の優しい笑顔にホッとしたのか、今までピンと張り詰めていた糸が切れて、塞き止められていたものが一気に放出されたようだった。 「大丈夫だよ」  温かみのある声で背中を軽くとんとんと優しく叩き続けてくれる。  私は泣きながら「運命の人に……裏切られました」とか、「家族のような職場に、解雇されました」とか、支離滅裂な話し方かもしれないけれど、ポツリポツリと言葉を発しては泣いていた。    
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