始まりはいつも突然で踏み出した時には世界が変わる。

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翌日になって、俺のいい噂がたっているのをちょっとだけ期待したりしたが、特に何もなく俺は安定のぼっちだった。 「なあ! 隣の組のやつが言ってたんだけど、次の授業の英語今日抜き打ちテストやるらしいぞ。」 「マジかよ、やべえ。なんも勉強してねえし。」 そんな声が耳に届いた。 「……サボるか。」 ヤンキーがサボる時の定番は保健室と屋上。俺は安眠のために保健室を利用することが多い。 「ちーす先生。頭痛いんでベッド借りまーす。 ……っていないじゃねえか。」 いつもいる保健室の先生の姿はなく、カーテンで日差しを遮られた部屋は薄暗かった。 「まあいいや。勝手に借りちまうし。」 ベッドもまたカーテンで囲まれており、俺は迷いなくそのカーテンをめくった。 「!?」 めくってすぐ、閉じた。 人がいた。と、いうか昨日助けた女の子だ。 「ご、ごめんなさい! 人いると思ってなくて!」 「大丈夫……ちょっとびっくりしただけですから。声かけなかった私が悪いし。」 声、震えてる?そういえば一瞬しか見てないけど泣いていた気が。 「……昨日は本当にありがとうございました。ちゃんとしたお礼は今度させてください。」 「い、いや、お礼なんて大丈夫です、けど。」 聞いていいものなのだろうか。クソ、女の子と接した経験値が低すぎてわかんねえ。 「あ、あの。どうして泣いてるかって、聞いても大丈夫、ですか?」 「……今は嫌だ、かも。」 「そっか。じゃあ聞きません。」 「プッ。」 彼女は突然吹き出して、カーテンを開ける。 「ごめんなさい。あまりにも噂と人柄が違うからおかしくて。」 「俺のこと、知ってるんですか?」 「もちろん。1年4組の曲家龍翔くんでしょ?」 「知ってて……俺と話してたんですか?」 「何それ。変な質問するね。」 彼女はまた笑った。 「いや嫌われ者の俺にとっては一大事だから。」 「そうなんだ。」 彼女の笑いはおさまらない。 「名前は? あなたの名前は聞いてもいい、ですか?」 「いいよー。1年6組の星宮鈴華です。同じ1年生なんだしこれからはお互い敬語はなしでいいかな?」 「あ。お、おう!」 窓カーテンの隙間から少しだけ日が差して彼女を照らす。あんまりにも美しいその姿に俺ははっきりとドキドキしていた。 てか、どこかで聞いた名前なんだよな……どこで聞いたっけ。 「おい、曲家。」
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