海辺の手紙

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海辺の手紙

 昔、まだ私が小学生だった頃。一九九〇年代、夏。  母の祖母が暮らす家がある海辺の町に、長期休暇の度に遊びに来ていた。冬の海は冷たく、一歩踏み入れたら最後、水平線の向こうまで連れていかれそうな怖さもあったが、夏の海はきらきらと輝いていて見えて、好きだった。  あの日は、母の誕生日が近かったので、何かプレゼントをしようと思い海岸を歩いていた。さくりさくりと繰り返される砂の音を聞きながら、私は綺麗な貝殻を探していた。白、薄桃、灰。小さなものから大きなものまで、色々な貝を見比べていたが、最終的には母が好きな茶色の模様が入った貝をプレゼントすることに決めた。  貝が壊れないようポケットに入れ、母と祖母が待つ家へ戻ろうと再び海岸を歩き始める。少し歩いたところで、波打ち際で何か光るものを見つけ、ばしゃばしゃと水音を立てながらそれに近づいた。もしかすると、珍しい貝殻かもしれない。そんな淡い期待を胸にしていたが、思惑は外れたらしい。 「……瓶?」  それは、ガラスの瓶だった。くるくると巻かれた紙を入れた瓶は、コルクでしっかりと封がされている。紙には何が書かれているのだろう。角度を変えて見ても、よくわからない。手紙なのかも、誰が書いたものなのかも、何もわからなかった。  私は何故だか妙に中身が気になって、瓶も持ち帰ることにした。
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