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雲から落ちる雨粒は、こんな感覚かな。
空を飛んでるわけじゃない。風や気流に乗ってるわけじゃない。翼やエンジンは持ってない。
わたしはまさに、空を堕ちている。
瞬間の出来事のはずなのに、時の流れは思った以上にゆっくりしてる。確かに、重力も感じてる。
空を浮かんでる?と錯覚しそう。
そんな今のわたしは、眼下に広がる高層ビル群を眺めるほどの、感覚的な時間と心の余裕があった。
あ、あれはウチの本社。やっぱ高いなあ。
あの最上階は元カレと行ったフレンチのお店。
あの会社、就活のときに落とされたっけ。
あの建物、屋上庭園があるんだ。
あの公園意外と広いなあ。
人口減ったとは聞いてるけど、相変わらずここは人が多い。
黒い群れがところどころ、狭い道を進んでいる。わたしもあの中のひとつだったんだなあ。
それをこんな所から眺めるなんて。絶景なり絶景なり。
わたしは白い服をまとって空から堕ちている。堕天使みたい?だとしたらかっこいい。
翼なんて、もともともってないけどね。
そういえば、子供のころは空を飛ぶのが夢だったなあ。
これは現実?それとも空想?それとも…
わたしの身体が、灰色と黒の密林へと吸い込まれていく。
そろそろ、わたしの意識も遠くへ行ってしまう。
なんだかんだで、楽しい人生だったなあ。もう少し、やりたいこともあったけど。
あの二人はどうしてるかな?ちゃんと生きてるかな?
アキ、乱暴とかしてないかな。サトシ、友達できてるかな。
もう一度、会いたかった。
忙しいなんて言い訳してないで、発信して、探し出せばよかった。
ありがとう。さようなら。
こんな形で、ごめんなさい。
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