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「先輩、これってやっぱり事件なんですかね?」
「さぁな、分かるのは面倒なことになりそうだと言うことだけだ。」
それだけ聞くと後輩は咎めるようにため息をついてお茶をすする。
ペタペタとスリッパを引きずる音が聞こえ、間もなく医者が部屋に入ってきた。
医者はお茶を1口含み、ゆっくりと飲み込むと話し始める。
「お待たせしました。検査結果の方なんですけども、このような小さな病院の施設では、原因を突き止めるに至りませんでした。申し訳ありません。」
「そうですか…。」
医者の言葉に、後輩が困ったように頭をかく。
原因不明、か。しかし、原因も無く体から血が失われるはずも無いのだ。外傷が無いとすれば体内に傷がついたり、その他の要因によって血が失われた可能性もあるはずだ。
「たとえば、口から血を吐いて失血状態に陥ったって可能性は無いのか?どこかに強くぶつけたせいで内蔵が傷ついたとか。」
「えぇ、もちろんその可能性も考えましたとも。しかし、内臓から出血する程の衝撃が加えられれば、その部位に打撃痕が残るはずです。今回患者さんの体にそのような痕跡は見当たりませんでした。」
「それなら病気で血を吐いたとか。」
「そのような可能性も考えました。しかし検査をしようと他の大きな病院に連絡をとったところ、患者さんは夏休みに家族で海外旅行へ行くとの事で昨日、体の精密検査を行ったとのことでした。流石に1日でそのような病に侵されるとは考えにくいですね。」
「それなら誰かに毒を盛られたとか!!」
「えぇ、血液検査を行いましたが毒物は検出されませんでした。」
どれだけ問答を繰り返しても正解が見えず、イライラがつのる。「まぁまぁ」と後輩がなだめてくるがそれにすらイラつく程だ。
外で煙草を吸ってくると言って病院から出る。外はすっかりと日が傾き、田舎の街を夕日の色に染めていた。
病院から少し離れた場所で車にもたれて煙草を吸っていると、海の家で泣きじゃくっていた彼女が話しかけてきた。
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