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「おふみ、つかいを頼んでもよいか」
「何をしましょう?」
旦那さまは、ごつくて怖い見かけのわりには、私に頭ごなしに用をいいつけることはありません。
もう少ししゃんとしてくださってもよいくらいです。
「届け物を……」
「これは……!それほどまでに大事なものなのですね!」
万事だらしのない旦那さまが、荷物をきちんと風呂敷に包んでいるのは見たことがありません。
きっと重要で内密の何かに違いありません。
「いや、そうでもないがな。通りの二つ向こうの角の柳屋は知っているか」
旦那さまの言葉に、私の心は浮き立ちました。
柳屋さんは、私の大好きな絵草紙屋さんなのです。
「知っていますとも!急いで行ってまいります!」
「そんなに急ぐこともない。途中で団子でも食っていけ、駄賃だ」
旦那さまから渡されたお金は、お駄賃とはいえないものでした。
「旦那さま、これでは団子が二十本は買えてしまいます」
「何の問題がある。たまには家族にも美味いものを土産に持って帰るがよい」
「でしたら半分だけ受け取ります。それでも旦那さまの団子まで買えますから」
「そうか」
旦那さまは首をひねっておられましたが、世間を知らないにもほどがあります。
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