おふみさんの長くはない一日

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ほどなく柳屋さんの店先につきました。 本は高価なものですから、私たちが気軽に買えるわけではありません。 いつもは、飾ってある役者絵や美人画を眺め、絵草紙の表紙や、軒先に貼ってある宣伝文を見るだけです。 それだけでも、私はうっとりと夢を見る心地になってしまうのです。 「やあ、いつも立ち寄ってくれる娘さんだね。何か用があるのかい?」 声をかけられて、私はびっくりして本当に飛び上がってしまいました。 声の主は柳屋さんの若旦那、利助さんでした。 「あのあのあの、こ、これを旦那さまから預かってきたのですが」 「ふむ」 利助さんは包みを少し開けて、嬉しそうに笑いました。 「空谷(くうこく)先生のおつかいだったんだね。奥に行きましょう。ついてらっしゃい」
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