おふみさんの長くはない一日

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「空谷先生の人情本や滑稽本は人気はあるんだけどね。ここだけの話、お上の批判や好色本を書いてくれたら数倍は儲かるはずなんだよ」 「旦那さまは、本を書いていらっしゃるんですか?」 「知らなかったのかい?」 初耳でした。 旦那さまは、お仕事をあまりしたがりませんし、そのお仕事も、近所のおかみさんたちの文の代筆だけだと聞いておりました。 「空谷先生は自分では食い詰めた浪人だといっておられるけどねぇ。私はそうは思わないんだ。冗談めかした話しかしないけれど、各地を旅してこられた方だ。政の事情にも通じておられるんだよ」 利助さんの人なつこい顔に引き込まれて、ついつい話してしまいそうになりました。 旦那さまは、もとは右筆という職についておられました。 右筆は政の記録を扱うお仕事です。 旦那さまは何も話してはくださいませんが、ひょんな出来事から、私はそれを知りました。 今は藩を出ているそうですが、きっと密かに国のお殿様の命を受けて動いているのだと思います。
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