おふみさんの長くはない一日

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ある日、私は部屋のお掃除をしていました。 いくらお掃除をしても、旦那さまはすぐに散らかしてしまわれます。 たくさんの本があるわけはわかりましたが、それとこれとは別。 大人として、あまり立派とは思えません。 いつものように書棚に本を戻している時に、私は気づいてしまいました。 「ないっ!あの本が!」 私のお気に入りの随筆です。 見聞きした珍しい物や食べ物、出逢った面白い人々。 簡単な絵もついていて、私は毎日少しずつ読むのを楽しみにしていたのに。 「何がないって?」 私の声に驚いたのか、昼寝していた旦那さまが起きたようです。 「この上の棚にいつも置いてある……」 「ふーん、確かにな。近所の子どもかおかみさんが借りて行ったんじゃないか?」 長屋には鍵もないし、旦那さまは、近所の人がこの家に自由に入って本を読むのを許しておられるのです。 「あの本はダメです。私のお気に入りなんです。だいたい旦那さまは物事に無頓着すぎます」 旦那さまは声を上げて笑い出しました。 「笑い事じゃありません!盗まれでもしていたら……」 「あれは別に構わん。俺の覚え書きだ。見たところ他になくなっている様子もないしな」 そんなやりとりのあと。 諦めきれない私のお気に入りは、思いもよらないところから出てきたのです。
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