おふみさんの長くはない一日

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やってきたのは、柳屋の利助さんでした。 「空谷先生、頼まれていた書物がこれです」 立派な表紙と、私には読めない題字がついた本でした。 「ああ、利助さん、思っていた以上に状態もいいな」 「正直私も驚きました。どうぞお納めください」 「有り難うよ、また頼むよ」 「そうそう、驚いたといえばこちらの方でしてね」 利助さんが取り出したもう一つの包みを見て、私はまたしても声を上げてしまいました。 「あ~っ!」 利助さんが目を丸くしました。 旦那さまはにやりと笑っただけです。 「どこから出てきた?」 旦那さまの言葉に、利助さんは頷きました。 「近所の子どもがね、思い詰めた顔でやってきましてね。これを買ってほしいと」 「そんなの許せません!旦那さまの大事な本を!」 「まあ待ておふみ。利助さん、どういう事情か聞いたかい?」 「ええ。大工のお父っぁんが怪我をして、しばらく働けなくなっちまったそうで。それは気の毒だが、許すわけにはいきませんからね。又二、入ってきなさい」 どうにかして待たせていたのでしょう、戸の外には近所に住む又二が立っていました。
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