おふみさんの長くはない一日

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利助さんと、怖い顔の旦那さまにはさまれて、又二は青い顔で震えておりました。 小さな声でごめんなさいを繰り返すばかりです。 もともと又二はおとなしくて、大それたことのできるような子ではないのです。 「過ちを認めてくれたらそれでよい。こうなる前にことの経緯を話してくれたらよかったんだがな。うちにはおふみがいるから人は雇えんが。利助さんのところはどうだ」 「ちょうど使い走りのできる小僧がいればと思っていたところです。給金は大して出せませんがね」 又二の顔がぱっと明るくなり、何度もお礼をいって帰っていきました。 「さてさて。ものは相談ですが」 利助さんが急に商売人の顔になって切り出しました。 「洒落本や好色本は書かん」 「それはまた次の機会に。私は諦めませんからね。今日はこの随筆を、ぜひうちから売り出したいと思いましてね」 「売らん」 「即答ですか。又二がうちに持ち込んでくれてよかった。よその店ならば手許には戻りませんでしたよ」
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