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「ねぇ、夕飯は何にしましょうか」
ソファに座りながらペラリと雑誌を捲る貴女と、冷蔵庫の中身を交互に二度づつ、横断歩道を渡る小学生の如く泳ぎ見た。
「んー、何でもいいよ」
だから私は、少しだけ意地悪をしたくなったのだ。
「質問を変えましょうか。この食事が最後になるとしたら、何が食べたい?」
「あぁ、そうきたかぁ。ん……お寿司、とか、食べたいかも。あぁ、でもなぁ……」
「ね?そう聞かれたら、ちゃんと考えるでしょう。私との食事はそう考えて答えて頂戴。明日には居なくなってるかもしれないんだから」
「う……ごめんなさい。気をつけます」
言っている意味を理解して頂けた様で、殊勝な態度を取る。
「わかってくれたならよろしい」
「じゃあさ、君なら何て答えるの?この食事が最後なら、何を食べる?」
「そうね、答えは一つよ」
ソファに座る貴女を押し倒して、問答無用に舌をねじ込む。
呻く声は、粘膜の接触により小さくなり、やがて消えた。
部屋に響くその音は、世界中で行われているソレと何も変わりはしないはずなのに、私達はソレと同じにはなれない事に、寂しいだなんて思ってしまった。
舌を抜いて貴女の瞳を覗き込むと、その瞳には私しか映っていなかった。その孤独は、あまりにも私の胸を締め付ける。
「……ふふ、貴女を食べるわ」
「……わぁお、強烈」
もう食事どころではなくなってしまったかしら。
暫く、貴女は息を止めて私の瞳の奥だけを見つめる。しかしそれも束の間、大きく溜息を吐くと私を抱き寄せる。
「はぁ、今ので凄く疲れた……」
「ふふ、ごめんなさい。どうしましょう、このまま続けてもいいけれど、お腹が空いてるのは本当ですし」
「……続きは、デザートって事でどうですか」
「あら、素晴らしい解答。その表現は満点ね」
「君ならこう言うだろうなって思って」
「よくお分かりで。伊達に長く付き合ってないわね」
「本当にね」
そのまま離れるのは少しだけ名残惜しく感じたので、色に染まったその頬に軽く口付けをして離れる。
「と、言っても残念ながらお寿司は無理なので、今日は野菜炒めとお味噌汁ね。待ってて」
「さっきの質問の意味!」
「ふふ、今度食べに行きましょう?予定は任せるわ」
「はいはい、お任せください。お姫様」
「お願いします、王子様」
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