時間の首輪

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「時計を買ったの」 何時ものように、二人がけのソファの左右を大きく空けて腰を掛ける私達の前に小さな黒い箱を置いた。 特に珍しいロゴが入っているわけでも、値の張るブランド品と言うわけでもない。 「珍しいね、普段着けないのに」 貴女が手に持ったマグカップの中身は蜂蜜入りのホットミルクで、コクコクと飲む貴女から甘い香りがする。 「私が着ける物じゃないわ、貴女が着けるの」 「え、私が?」 「そう、プレゼントよ。是非着けて頂戴」 「嘘、ありがとう。本当に珍しいね、君が物をくれるなんて」 「良い物が見つかったのよ、偶然ね。はい、これ」 開けると、箱と同じような黒い色のベルトをした、これまた箱と同じような特に物珍しい感じもしない時計が出てくる。 ただし、そのベルトは腕時計と呼ぶには異様に長かった。 「ん......なんか、これ長くない?調節できるかな」 「ふふ、それはね、腕に着ける時計じゃないの」 「え、ならどこに着けるの」 ソファに座る貴女の後ろに回り込むと、それを首に回した。 これがまた凝った作りがされていて、首に着けるにもかかわらず着け方は腕時計のそれなのだ。中々苦戦するが、ついでに首を撫でまわすには都合の良い言い訳になる。 つい、そのまま絞めてしまいそうになるのは、綺麗な物を壊したくなる私の何時もの悪癖だ。 「......首時計?」 「ふふ、間違ってはないのだけど、これはどちらかといえばチョーカーよ。時計付きのね」 「へぇ、なるほど。君が好きそうな奴だねぇ」 「そう、私こういうの大好きなの」 「でもさ」 「なぁに」 「......これ、私時計見えないんだけど」 「ふふふ、そこがいいんじゃない」 「えぇ、意味無くない。それ」 「意味はあるわ。ほら」 私はまた、ソファを半周して貴女の顔を膝立ちで覗き込む。 「私が貴女の顔を見るたびに時間がわかる」 「私が着ける意味!」 「あるわよ、時間を確認するたびに貴女の顔が見えるのよ。素晴らしいじゃない」 「ちょっと、それ普通に腕時計とか着ければ……」 面倒な事を長々と喋りだす口は早々に口で塞ぐに限る。 即効性が高く、何より後腐れがない。 ついでに褒め言葉の一つでも載せておこう。 「......ごめんなさい。可愛かったから、つい」 「......あの、その癖は治してもらわないといつか本当に怒るよ」
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