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一秒、また一秒。
時計のフリをした時間の首輪は時を刻む。
「でも、そうだね。二人で同じ事をしても仕方ないしね。二人で居るからこそ、違う服を着て、違う事を考えて、違う物を食べて、違う歌を聴く。それで」
貴女は少し気恥ずかしそうに俯いた。
「そのどのページにも、君が居るの」
「……珍しい。貴女がそんな詩的な事を言うだなんて」
「たまにはね、たまには!ほら、言葉にするのは、大切だなって思うからさ」
照れ隠しが下手だから声が上擦るのに、貴女はそんなにも正しい事を言う。
「ふふふ、嬉しいわ。そうね、本当に……本当に大切ね」
その正しさが、少しだけ私の胸を締め付けた。水を含んだスポンジを握るように、私の胸から何かが溢れた。
私は首の針だけを見つめる。
また一秒、貴女を私に縛り付ける。
いいえ、本当に縛られているのは、私の方だ。私は貴女に、ずっと縛られている。
その正しさに、ずっと、ずっと。
「……ねぇ」
「ん?」
「貴女は私と居て、幸せ?」
少しだけ、答えを聴くのが怖いのは貴女が正しい答えしか言わないと知っているからだ。
「うん、幸せだよ」
秒針が一周するのと同時に分針もズレていく。
「……そう、ありがとう。私も幸せよ」
また私は、嘘を吐く。
でも。
「やだ、なんか恥ずかしい」
そう言って照れくさそうにはにかむ顔を一秒でも長く見ていてたいと願うこの気持ちは、本物だと信じいてる。
その秒針は、止まらないから。
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