言えない言葉

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「言葉にすると途端に安っぽくなる言葉って、多いよね」 空を舞う髪の先を、指で追いかけては纏め損ねる貴女は、何時も気怠げな目をしている。 夕陽はあまりにも赤く、枯れる様な赤に侵食された校舎は、今すぐにでも崩れ落ちそうな気がした。 一つの机は、お互いの肘を置くにはあまりにも狭く、その距離はあまりにも遠い。 「そうね、例えば」 照らされた貴女のセーラー服のリボンが眩しくて、私は目を閉じてそう問うた。 だから、貴女の顔を私は見ていない。 「好き、とか。愛してる、とか」 陳腐ね、と言いかけて、なるほど確かに安っぽい、だなんて息が漏れた。 「今笑ったでしょ」 「ふふ、ごめんなさい。少しおかしくって。でも、どうして」 「どうしてだろうね」 熱視線、とはこう言う事を言うのだろう。 熱い、熱かった。 燃えるほどに熱かった。 だから、内側から燃え出る前に目を開けてしまったのだ。 その目を見つめてしまったら、もう、逸らすことなんて出来ないと知っているのに。 その感情を、目を閉じて受け止められるほど、私は強くないから。 「そうね、確かに安っぽいけれど、その安さが良いんじゃないかしら」 「なんで」 「あまりにも高い言葉は、富豪にしか使えないじゃない」 「君のそういう例え、大好き」 「あら、知らなかったわ。もう一度言ってもらえるかしら」 「そういう所は、あんまり好きじゃない。好きだけど」 目はあまりにも物を言うから、私は裏の裏まで見つめてしまう。 そんな風に見つめないで。 今日はその目だけで眠れなくなってしまう。 そんな夜は何度目だ。 数えるのも飽きてしまったくらいには、数え続けた夜だった。 「好きだよ」 あぁ、もう。 そう言いながら、逸らすその目の奥まで見えるこの目を潰したい。 この耳を聞かなかったことに出来るなら、この拙い思いが虚しさに変わる前に、貴女と共に泡にでもなりたい。 音になる前から遡って消し炭にでもしてしまいたいのに、その音の元に辿り着く前に、私の蝋で出来た翼は溶けてしまうのだろう。 「私もよ」 それは嘘だ。 貴女のそれを私と同じモノとして扱うにはあまりにも私達は近過ぎて遠い。 酷い感傷に塗れながら、これは幸福の副作用だから、だなんて言えるほど私達はきっと大人じゃない。
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