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「どうして」
「貴女が、貴女だから」
「やめてよ、嫌いだ。その誤魔化し方」
そうやって、誤魔化したいのはどっちなのだろう。
「私が、女じゃなかったらな」
「やめなさい、嫌いよ。その誤魔化し方」
あぁ、酷い顔。愛おしいその顔、歪みきったその表情。決して笑ってはいけないと知っているのに、心は愉快が止まらない。歪んでいるのは私の方だ、醜いと言ってもいい。むしろ、誰かそうやって私を叱って教育し直してくれるなら金なら幾らでも払ってやろう。良い医者を寄越せ。この幾ら払っても治らないこの病気は、大人になっていくうちに消えて無くなってしまうのだろうか。今すぐにでも治療してくれと泣き叫ぶ私が正常なのだろうか、こんな世界にした神様を呪う私が正しさの証明になるのだろうか。踏み絵なら幾らでもしてやろうじゃないか、ねぇ、神様。安っぽいと狂い笑いながら、割れるまでその絵を踏みにじってやろう。それでこの想いが証明できるなら、幾らでも、幾らでも。
「もう、誰も居ないかな」
誰も居ないグラウンドを眺めて、暗くなり始めた空に、遅いよ、と非難を浴びせる。
「そろそろ暗いわ。帰りましょう」
夜は良い、誰にも気付かれずに走り抜けることができる。どうしてこんなにも認めてもらえないのだろう、なんて嘆く声も、この黒なら吸い込んでくれそうだ。
まるで呪いだ。きっと吸血鬼はこんな思いで生きていたのだろう。親近感が湧いてしまう。正しさ、ってなんなんだろう。正義の剣は、私達にとって銀の弾丸だ。撃ち抜かれたら、灰になってしまうから。ならば、私達は悪なのだろうか。正義の味方は、一体誰の、一体何の味方なのだろうか。この想いが悪だと言うなら、忌避されるべきものだと言うのなら、正義なんて私達には必要無い。吸血鬼が血を吸わなきゃ生きていけなかったように、私は貴女の愛を吸わなきゃ生きていけない。だから、私達は太陽の下を歩けない。
校門を出る頃にはもう辺りは暗闇に包まれていた。貴女は何も言わずに私の細い手首を強く、強く、折れるかと思うくらいに強く握りしめてから、ふっと、諦めたように指を絡める。
「ねぇ、私の事、好き?」
「当たり前じゃない」
「あはは、ありがと、ちょっと元気出た。大好き」
あぁ、これはよくない。貴女のその顔一つで、全てがどうでもよくなってしまう。
今日はもう眠れそうにない。
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