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そして、完全に使い物にならなくなるまで、そう時間がかからない事も、分かってしまっている。
「ねぇ、今度映画に行こうよ。見たかったやつがもうすぐ始まるの」
「いいわね、ジャンルは?」
「えーっとね、サスペンスホラー?ちょっと違うな。ホラーなんだけど、なんかちょっと違う。現実的?って言えばいいのかな。それがサスペンスホラー……?ごめん、言っててわかんなくなっちゃった。とりあえずホラー!」
「ホラーねぇ……。貴女ホラー苦手なのに、好きよね」
「え、でもわかんない?なんかこー、さ。怖いもの見たさって奴だよ。ギャーってなるんだけど、覗きたくなる!みたいなさ」
「ふふ、ぎゃーって、面白いわね。いつも目も耳も塞いで、見ない見ない見ないー、って呟く貴女は本当に可愛いわよ」
「いや、だって怖いんだもん!」
「はいはい、分かったわ。行きましょうね映画」
「あしらわれた、今適当にあしらったよね、根に持つからねあたし」
えぇ、そう。
怖いから一人で眠れない、なんて程のいい言い訳の一つ。
だから貴女は私とホラーを良く見るのよ。
私と眠る為にね。
まぁ、本当に怖いのも知っているけれど。
「可愛いわね、本当に」
「うぅー、嬉しい……けど、なーんかあやされてる気分になるんだよなぁ」
「えぇ、あやしているもの。何も間違ってないわ」
「……いつか絶対叫ばせてやる」
「ぎゃーって?」
「そしてその顔を恐怖に歪ませてやる……」
「ぎゃふん、位ならいつでも言ってあげるわよ」
「あ、今のそれ可愛い、もっかいやって」
「ぎゃふん」
「うわ、それ可愛い……動画撮っていい?」
「ごめんあそばせ、撮影は有料なの、事務所通していただかないと」
「ケチだなぁ、だからモテないんだよ」
「貴女一人にモテていれば十分よ」
「……今のそれ、良い。すごく良い。もっかいお願い」
「うふ、二度は言わないわ。ケチなので」
「もー!」
自分の長い黒髪が、風と共にはたりはたりと散る。
この日常は、長くはないと知っている。
知ってはいるが、辞めるつもりも無い。
今は。
「ね、お願い。もう一度だけ、言って?」
紅潮した頬でねだる姿は、あまりにも愛おしい。
だから、耳元に唇を寄せて、鼓膜に口付けが出来る程の距離で
「愛してる」
と、だけ。
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