第1話 トラウマがやってきた

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 あれだけセルジュを辱しめて、心に傷を負わせて、おまけに一方的に婚約を解消するなんて。酷い女だと思った。あどけない少女の姿に騙された。あの女は愛らしい天使の皮を被った悪魔なのだと、そう悟った。  その後の人生は散々だった。あの出来事がトラウマになり、セルジュは女性を前にすると酷く緊張するようになった。全身が嫌な汗をかき、動悸が激しく乱れるようになった。寄宿学校の社交の授業でダンスのパートナーになった相手に手汗がすごいと大声で馬鹿にされ、皆の前で笑い者にされた。それがセルジュの自尊心にトドメを刺した。  以来、セルジュは社交の場には顔を出していない。幸いセルジュは子爵家の次男で、年の離れた兄には既に妻子があった。  結婚はすっぱりと諦めて剣術修行に明け暮れた。その成果もあり、この国の王太子に剣術の腕を買われて、先日護衛騎士という誉れ高い任を与えられたばかりだった。  長いあいだ繰り返されてきた悪夢も、みなくなったはずだったのに。    汚れたシーツと寝間着を丸め、部屋の隅に置かれた篭に放り込む。顔を洗い、素早く訓練着に着替えると、セルジュは自室をあとにした。
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