第1話 トラウマがやってきた

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***  振り下ろされた切っ先を受け流し、鍔迫り合いに持ち込む。しばらく拮抗状態を続け、相手の集中が途切れた一瞬を見計らって柄を捻ると、甲高い金属音とともに弾き飛ばされた剣が石畳に転がった。  手首を抑えて膝をつく相手の眼前に剣先を突き付け、セルジュはにやりと笑ってみせる。 「勝負あったな」 「……あー、またかよ。くそー」  したり顔でセルジュが勝利を告げると、稽古相手の騎士は気の抜けた声とともに両手両足を投げ出して地面に伸びた。 「相変わらず強ぇな。俺の前に十人相手してたから今日はイケると思ったんだけどなー」 「相手の疲労を当てにしてるようでは高が知れるぞ」  騎士の言葉をふんと鼻で笑い飛ばし、一度剣を振ると、セルジュはその場を離れ、訓練場の隅でこちらを見据える男の元へ向かった。  黒い燕尾服に身を包んだ赤銅色の髪の青年は、腕を組んで眼前に立つセルジュと向かい合うと、灰色の瞳を細めて優雅に微笑んだ。 「朝から精が出ますね」 「これが仕事だからな。それより何の用だ、ロラン」  汗を拭いながら要件を尋ねる。ロランと呼ばれた青年は懐から手帳を取り出すと、すらすらと言葉を連ねはじめた。
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