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「本日のスケジュールの確認に来ました。午後から王太子殿下に剣術の稽古をつけるお約束は覚えていますね?」
「覚えている。安心しろ、この程度の訓練の疲れなど午後には響かん。殿下の訓練でも全力でお相手するつもりだ」
「……それです。それが困るんです。貴方は何かと勝ちに拘る。殿下は良いと仰いますが、それでは困るのです」
深々と溜め息をつかれ、セルジュは太い眉を露骨に顰めた。
「手を抜く方が失礼に当たるだろう。第一、殿下の剣の腕は俺と互角だ。手を抜けばこちらがやられる」
腕を組んで踏ん反り返るセルジュの言葉に、ロランは首を振って顔を伏せ、眉間を抑えた。
「本日の訓練には殿下の婚約者であらせられるグランセル公爵令嬢リュシエンヌ様が同席なさるんですよ」
「それがなんだ」
「鈍感ですね。こういった場合、殿下に格好良く勝たせて差し上げるのも臣下の勤めだと言っているのです」
「……なるほど」
要するに、惚れた相手に良いところを見せるための引き立て役になれということか。それならそうとわかりやすく言えば良いだろうに。
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