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「善処しよう」
ため息混じりにそう応えると、セルジュはずかずかと王宮に向かって歩き出した。やれやれと肩を竦ませて、ロランが後を追ってきた。
ロランはセルジュが仕えるべき主であるデュラン王国王太子ヴィルジールの従者だ。セルジュが王太子の護衛騎士に任命された同日に王宮に上がったらしく、文官と武官という別の所属でありながらも、王太子付きという立場上、ふたりはなにかと行動を共にすることが多い。子爵家の次男という似たような環境で育ったこともあり、互いに身の上話をすることも度々あった。
「婚約者と言えば、セルジュ、貴方も特定の相手がいたりするのですか?」
王太子の私室に向かう途中、それまで黙って隣を歩いていたロランが徐に切り出した。今朝の悪夢のこともあり、無意識にごくりと生唾を飲むと、セルジュは平静を装いながら曖昧に問いに応えた。
「……今はいない」
「親に縁談を持ち掛けられたりは……?」
「ない」
「そうですか、羨ましいですね」
微かに含みをもたせてそう呟くと、それきりロランは口を噤んだ。
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