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次の日、俺たちは親戚の車に乗って朝一番に海をあとにした。行きとは違い転校生は、アイマスクを外して車窓を眺めているがどうにも話しかけられる雰囲気ではなく、俺も黙って車窓を眺めた。
「また来年も手伝ってくれると嬉しいよ」
あっという間に俺の家へとたどり着き、親戚の人はそう言い残して海の家へと戻るため車をまた走らせた。
「また、学校でな」
「うん、またね」
そう別れの言葉を言い合い、俺と転校生もそれぞれの家へと帰った。
何事もなく時間は過ぎ去り、新学期をむかえた俺は、学校へとむかった。教室へ入ると、もうすでにクラスメイトが集まっている。
「なぁ、あの席、誰の席か知ってる?」
一人の男子がそう話かけてきた。彼が指差す方向には、今まで記憶にはなかった席がポツリと置かれていた。
「あの席は……」
そう、たしかアイツの……そう誰かを思い浮かべるけれど、白い靄となって誰の席かは鮮明に思い出すことができなかった。
「ごめん、俺もわからない」
「そっか、転校生でもくるのかな」
「そうかもな」
転校生が来る。その言葉に引っかかりを覚えるも、思い出せずもやもやとした気持ちだけがのこる。
その後、先生がきても空いた一席は埋まることはなく。やがて、その席は撤去された。
あの席には、誰かがいた。まるで、クレーターのようにその記憶の穴が埋まることはなく、夏が終わって秋がはじまった。
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