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転校生がいうには、月の海は呑み込まれてしまいそうなほど黒く静かな海らしい。黒い月の海は宇宙に繋がり、宇宙は他の惑星の海に繋がっている。
「地球と繋がったとき、これが海なのだと思ったのですが……残念です」
かなしげに空を見上げた転校生は、ポツリと呟いた。
彼のそんな姿を見て俺は、いやきっとクラスのみんなも彼の話を信じたわけではないけれど、いつか海をみせてあげたい。そう思った。
転校生に海を見せる機会は、彼がきてから二ヶ月後の八月にやってきた。俺の親戚に海の家の手伝いをしないかと言われ、転校生も誘うことにした。
期間は一週間。一番忙しい時間帯の昼と夕方以外は自由にしていいというので転校生には存分に海を楽しんでもらいたい。俺も彼が海を見てどんな反応をするのか楽しみで仕方なかった。
海の家の手伝い当日、転校生は指定した集合時間に一秒の狂いもなくピッタリやってきた。
「誘ってくれてありがとうございます」
会って早々、菓子折を片手に頭を下げられた。菓子折の中身はなんなのか気になって聞けば淡々とした声色で「月といったらこれだと聞きました」そう返された。結局中身がなんなのかわからないまま、もらった菓子折は母親に預け俺と転校生は親戚の車の中へと入る。
転校生は、いつの間にか親戚にも同じ菓子折を渡していたらしく助手席には同じ包みの箱が置いてあった。
「出発するぞ」
「はい、お願いします」
エンジンをかけて、俺たちをのせた車が発進する。隣にいる転校生は、なぜかアイマスクをつけはじめたので俺は黙って車窓を眺めることにした。
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