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「……あの」
声をかけられ、顔を上げる。転校生は、真剣な表情で俺を見ていた。
「海を見せてくれてほんとうにありがとうございます」
「そんな、改まって礼を言われることでもないよ。海っていってもさ、沖縄とか国外だったらハワイとかここよりも綺麗な海はまだまだある」
「そうだとしても、感謝しています。この景色を一生忘れません」
「……そうか」
「はい」
少しだけ照れくさくなって、そっぽを向く。けれど、再び転校生に呼ばれて視線をゆっくり戻した。
「つまらないモノですが、お礼として受け取ってください」
転校生は、そう言って首にかかっていた小さな小瓶のネックレスをテーブルに置いた。
「……これは?」
「月の海です」
そう言われて、俺は小瓶を手にとるとマジマジと眺めた。
小瓶の中には、黒い液体が入っていた。小瓶が揺れるたび液体も揺れ、その揺れに合わせて七色に何かがチラチラと光っていた。
「……綺麗、だな」
小さな小瓶のなかに星空を閉じこめたみたいで綺麗だと素直にそう思った。
「ありがとうございます。よかったら受け取ってください」
「え、でも、大事なものじゃないか?」
「たしかに、大切な故郷から持ってきたものですが、僕も地球の海の一部をもらいますので」
転校生はポケットから小瓶を取り出す。そこには海をそのまま閉じこめたみたいに青色の液体が入っていた。
「そうか、じゃあ遠慮なく貰おうかな」
「ありがとうございます」
月の海が入った小瓶を首にかけた俺を見て、転校生は嬉しそうに笑った。
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