125人が本棚に入れています
本棚に追加
「桐生さんって、もしかして、その二つ名が嫌で、所長のことも頑なに二つ名で呼ばないんですか」
「あのな、フジコちゃん」
「はい」
「世の中には勘付いても黙ってた方がえぇこともあるんやで?」
その言い様にあたしは思わず笑って、それからエンターキーを押した。分からないことはいくつでもある。でも、少しだけ分かったこともある。
被疑者は確保。子どもは保護。「わざわざそこまで記入せんでえぇから」と見かねられて文面からは削除したあたしの失態も含めて、これが今日の任務の成果だ。
反省はもちろん大事だけれど、悪感情を引きずり続けることとは違う。感情だけではなく、何故そうなったのかを振り返り、ではどうすれば良かったのかと再考する。まだ、少し難しいけれど、それでも、やっていかなければならない。
そして、一つずつしっかりと次に活かしていきたい。「鬼狩り」の一員として。幸い、活かしていくことを許されているのだから。
「桐生さん」
「ん? なに?」
「あのとき、所長が言っていたことが、少しだけ分かったような気がします」
「うん?」
「憧れだけで、きれいごとだけで続けられるものじゃないってことですよね」
今なら分かる。もう嫌になった? と。桐生さんがあの場面であえて聞いてくれたことも、きっと同じ理由だったのだろう、と。
「うん。まぁね。僕らは、キラキラした瞳でライセンスを取得した新人が、夢破れて崩れていく姿を何人も見てる。特に、フジコちゃんみたいなお家の子やとね」
どこか苦笑めいた調子で、桐生さんが言う。
最初のコメントを投稿しよう!