紅屋のフジコちゃん Act.5

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「あれ。所長?」  帰り支度を整えて、事務所を出る。廊下にいたのは先に出ていたはずの桐生さんではなくて、いつぞやの高校生のような姿の所長だった。  もしかして、桐生さん。余計極まりない気を回したのではないだろうな、と。疑惑を抱いていると、所長が口を開いた。 「代わった。あいつ、右足やられてたからな」 「え……?」 「おまえが気にすることじゃない。あいつのミスだ」 「で、でも」 「仮におまえに原因があったとしても、おまえの教育係はあいつだ。おまえが犯したミスも含めて、責任はあいつだ」  そう言われてしまえば、あたしには返す言葉がない。  と言うか、全然、そんな風に見えなかったのに。所長は「仮に」と言ってくれたけれど、間違いなく原因はあたしだ。思い当たる節が多すぎて黙り込んだあたしに、所長が溜息交じりに付け足してくれた。 「本当にたいしたことはない。医局に叩き込むのに苦労したくらいだ。おまえが次に出てくるころには治ってる」 「……だったら良いんですけど」 「だから気にするな」  はい、とは言いにくかったけれど、これも一つの教訓とすることにして、あたしは頷いた。  だから所長、現場にやってきた瞬間に、「この馬鹿」呼ばわりしたのかなぁ、とも疑いながら。 「そもそもとして、おまえたち二人になにかあれば、責任は俺にある。そう言う意味では、あいつの怪我は俺の責任だな」  「所長」だもんなぁ、と思って、ふと桐生さんの先ほどの台詞を思い出した。紅屋を大事にしているって、つまり、こう言うことでもあるのだろうなぁ、と。 「あいつは嫌がるだろうが」 「確かに。嫌がりそうですね」 「嫌がっていれば良いんだ。次からしないようになるだろう。あいつは昔から無駄に年上風を吹かせたがる」  所長がそんな風にあたしに桐生さんのことを話すのは初めてで、もしかして、あたしの存在を少しは認めてくれたのかもしれないなと思えた。
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