紅屋のフジコちゃん Act.5

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「送っていく」  話を打ち切って壁から背を離した所長を、あたしは気が付いた時には引き留めてしまっていた。 「そう言えば、あの」 「なんだ?」  あたしの呼びかけに、所長は律儀に脚を止めて視線を合わせてくれる。所長だなぁ、と思った。聞きたいことはいくつもある。どうでも良いようなことも、知りたいなぁと思うようなことも。  ……これから、いくつでも聞いていったら良いのだろうけれど。でも。  研修生見習いから研修生になって、紅屋にいることを正式に許されて。このタイミングで最初に聞きたいことは、この一ヵ月の一番の疑問かな、と決めた。 「桐生さんと所長っておいくつなんですか」 「なんだ。気になるなら調べたらすぐに分かっただろう」  いささか唐突だったはずのそれにも、所長の声は「そんなことか」と言わんばかりで。聞いたら答えてくれるよ、と。勝手に壁を作っていたあたしに教えてくれた桐生さんの言葉を思い出しながら、眉を下げる。 「いや、それはちょっと、さすがに」 「あいつが二十七で、俺が二十五」  あっさりと告げられたそれに、顔には出さなかったけれど驚いた。ある程度の予想はしていたけれど、それでもやっぱり思っていた以上に若い。と言うか、あたしと五歳しか変わらないとか。 「ちなみに、おいくつのときにライセンスを取得されたんですか?」 「十五」  それは、なんと言うか本当に規格外だった。所長も育成校の出身じゃないのだなとも改めて知る。そして、この人も本当に子どもの頃から、実戦の真っただ中にいたのだな、とも。 「じゃあ、十歳の頃から、もう鬼狩りの実践に出ていたんですか」  それは、あたしの日常が崩されたのと同じ年だった。 「珍しい話じゃない。特に俺や桐生のような、古い家の出身者には。最近は、育成校に行かせる親もそれなりに多いが、自分の家の術式に拘るところもやはり多いしな」 「所長もお家で学んだんですか」 「いや、……俺は、紅屋で育ててもらった」  御三家の「天野」なのに? との疑問をあたしは寸で呑み込んだ。聞いてはいけないこと、と言うものも間違いなくある。答えてくれるから、あたしが知りたいから、で、良しとしてはいけないものが。
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