紅屋のフジコちゃん Act.0

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 国立特殊防衛官育成高等専門学校にて特殊防衛官を目指していた―俗称で言うと、鬼狩り育成学校で鬼狩りを目指していたわけなのだけれど―そんな、ただの学生だったあたしの耳にさえ、ここの事務所の噂は届いていた。  いわく、全国に二百五十はある鬼狩りの事務所の中でも、五件しか認定されていない最高ランク、特Aの老舗事務所である。  いわく、所長の天野蒼は、御三家のなかでも鬼狩りの総本家と称される天野一族の出身で、史上最年少の特Aライセンス保持者でもある。  いわく、副所長の桐生桃弥も、御三家の内の一家、桐生の出身で、鬼狩りの中でもほんの数パーセントしか存在し得ない特Aライセンス保持者である。  いわく、近年発生した大規模な「鬼」との抗争に置いて、この二人とその所属事務所「紅屋」の名前が功労者として上がらないものはない。  ――あとは、なんだっけ。二人とも顏も特A級だとか、美少年だとか。いろいろみんな言っていたなぁ。  そもそも何歳かは知らないけれど、どれほど若く見積もったところで三十路近いだろう人に「美少年」は、盛り過ぎを通り越して失礼じゃないのかとも思うのだけれど。それはさておいて。  あたしの配属先を知るや否、興奮気味に話しかけてきた同期生たちの顔まで思い浮かんで、唇をひっそり尖らせる。  さすが強運、「ラッキー」だよね、フジコは、と。羨望半分嫌味半分のお言葉を頂戴したけれど、あたしだって言いたい。  なんでだ。なんで、あたしがここに配属された。  自慢ではないが、あたしの卒業成績はビリから数えた方が早かった。開校三十年が過ぎ、広く一般に「鬼狩り」志願者を募集するようになって久しい母校も、なんだかんだで未だに在校生の八割が、多かれ少なかれ「鬼狩り」に連なる血筋と言う、家柄重視の古風な世界だ。ちなみにあたしは残り二割の少数派。家同士の繋がりやコネは当然のごとく持っていない。おまけに重ねて言うけれど、成績は最底辺だった。  そんなあたしが、今まで一度も研修生を採っていなかった紅屋に採用された理由とは、何なのか。
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