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「改めまして。僕は桐生。桐生桃弥。一応、紅屋の副所長。と、言っても、紅屋は僕と所長の二人だけやったから、副所長って言うても、使い走りみたいなものやったんやけどね」
人の噂って、案外、当てになるものなのだなぁ、とあたしは一つ学習した。色素の薄い柔らかな髪色と瞳に、百八十センチ近くありそうな長身。
めちゃくちゃ特上の美形かと言われると、自分の顔を棚上げにして悩むところではあるが、文句なしに美形には分類されるだろうご尊顔だ。
おまけにブラックスーツの襟元に光っているのは、滅多とお目にかかれない特Aランクの記章。青い円の中心部には桃の花が踊り、その周りを五つ星が囲んでいる。
――鬼狩りの中でも本当に一握りだって言うもんなぁ。特Aライセンス保持者って。そう言う意味では、最早、絶滅危惧種だ……。
でも、そんな人達と一緒に働くことができることは、恐れ多いけれど、やっぱりあたしは「ラッキー」なのかもしれない。そんなことを考えながらじっと見つめていると、桐生さんがにこりと目を細めた。やっぱり美形だ。
「あとで、蒼くん……所長から説明があると思うけど、一応、僕がフジコちゃんの教育係。とりあえず、国家試験を受けれるように一年間は頑張ろうね」
「はい! よろしくお願いします」
「ところで、フジコちゃん」
「はい!」
「その面白い二つ名、誰が付けたん?」
「え、……えーと」
つい数分前の感動を返して欲しい衝動に駆られながら、あたしは視線をせわしなく動かした。けれど、桐生さんは、キラキラとした瞳であたしの答えを待っている。
「フジコちゃん、育成校の出身やんね。お家も鬼狩りに関係するところではないみたいやし。と言うことは、学校の先生が付けたんやろ? せやのに、なんで『ラッキー☆フジコ』? 育成校出身の子って、花の名前とか、そう言う無難な二つ名の子が多くないっけ」
そりゃ、あたしだって無難な二つ名が欲しかったですよ、との本音を呑み込んで、愛想笑いとしか言いようのない笑みを浮かべる。
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