0人が本棚に入れています
本棚に追加
いきなり連れて来られたという不条理を忘れて、太郎はガチガチに緊張した手足で、狭い室内を、机に体当たりしたり、壁に張られたわけのわからない標語のポスターに引っかかったりしながら(牛乳は1日1本! とか書いてある)、なんとかその少女に一歩一歩近づいた。なにせ、これまで出会った女子の中で、群を抜いての美少女なのだ。お近づきになれるチャンスをみすみす逃す真似はできない。
「あ、あの、初めまして、山田太郎です」
太郎はどもりながら、なんとか自分の名前を告げた。
少女は太郎を見上げ、その顔を確認すると、すっと白い手を差し出す。
(い、いきなり握手……!?)
見た目通り、挨拶も外国式なのだろうか。
太郎は制服のスラックスで手のひらの汗を拭い、緊張した面持ちで右手を出した。少女の彫刻のような白い五指がそれを握る。たおやかな彼女の手に包まれる……その感触に酔いしれる前に、太郎の体は、この狭い階段下の部室の宙を、某雑技団のように華麗に舞っていた。
「あがっはぁっ!?」
ダシーン!と音をたてて、太郎は会議机の上に背中から落とされた。文房具が散らばっていた机上に背中から打ち付けられたので、鋭利な痛みがそこかしこに走る。
「いっづあ!!」
あまりの痛みに、のたうち回る太郎。その無様な姿を見下ろし、少女は一言。
「クソが」
今にも唾でも吐きそうな顔で、少女は言い捨てた。
「いきなり何すんだよ!」
すかさず抗議する太郎に、少女は飄々と返す。
「猫背。体幹が歪んでる。根暗そう」
「ふっざけんな! 暴力女―!」
なんとか言い返すものの、未だ机上でのたうち回っている太郎に、男子生徒は身をかがめる。
最初のコメントを投稿しよう!