0人が本棚に入れています
本棚に追加
どうにも、この男のペースにハマっている気がしてならない。さっきから太郎は、この男の魔の手から逃れるタイミングを伺っているのだが、その一瞬の隙がどこにも見当たらないのである。
長身の男子生徒は、ホワイトボードの前に立ち、アリスと太郎を見回してゴホンと厳かに一つ咳をする。まるで、これからアーサー王の円卓の会議のような、重要な議論が始まるとでもいうように。
「と、いうわけでだ。人数も揃ったし、始めようか」
いきなりこう切りだされても、太郎は、
「始めるって、何をですか!」
としか言い様がない。
男子生徒は判然と言い切った。
「山田部だ」
太郎につきまとってから、この男がずっと主張している、このキーワード。
さすがにこのタイミングならば、太郎も反論することができた。
「だから山田部って、なんなんですか!? っていうか、そもそもあんた誰なんだよ!」
「俺は三年の、山田部の部長だ。部長と呼べ」
「だから山田部ってなんなんだって聞いてんだろうが!!」
部長は、「ああ、そういえば」とポンと手を叩く。
「説明がまだだったな」
「今更か!」
という太郎のツッコミを無視し、部長は続ける。
「お前、この名字、不思議だと思わないか」
「え?」
――唐突に、この人は何を言い出すんだ。
太郎の胸を、さらなる疑念が満たす。しかし、同時に「苗字」というくくりに、納得がいった。
最初のコメントを投稿しよう!