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太郎は立ち上がって、叫んだ。叫ばずには、いられなかった。
自分だって、キラキラした他の人間が羨ましくないわけじゃない。だから、テニス部に入ろうとしているのだ。テニス部に入れば、自動的に自分も青春を謳歌する側の人間になれる。
だが、このファミリーネームの「山田」に変革を起こすなどという試みには、何の意味も見いだせなかった。パブリック・イメージを覆そうとしても、そんなの、土台無理な話である。
部長は太郎を凝視している。アリスはいつの間にか覚醒していて、人形のように無機質な表情で太郎を見上げていた。
「僕は、この苗字のイメージを変えたいなんて、無駄なこと思わない。第一、この苗字のイメージを払拭させようと努力するほど、思い入れなんて、ないですよ。それに、無理ですよ、そんなこと……。だから、僕を巻き込むな! 放っておいてくれ!」
太郎は、バネ仕掛けの人形のように椅子から立ち上がり、部室を飛び出す。
「おい、太郎待て!」
後ろから部長の声がするが、当然応える義理などない。廊下を全速力で駆け抜ける。あっという間に息が上がった。
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