ACT.1 山田部とかいうよくわからない組織

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 太郎はテニス部への入部届けを出すという当初の目的をすっかり忘れ、自分の教室へと舞い戻っていた。一年三組の扉を開けると、案の定そこに生徒は誰一人として残っていない。太郎は、自分の机からデイバッグを取り上げ、適当に真新しい教科書を突っ込むと、鞄を肩に引っさげて教室を出た。廊下を歩きながら、先ほど出会ってまだ一時間もたっていない、山田部・部長とかいうわけのわからない肩書を持つ男への遺恨が沸き上がってくる。  ――なんだっていうんだ、あの山田部長とかいう男は……。  人をいきなり拉致しておいて、部活に入れだって?  冗談じゃない! 僕は、何かを成し遂げようなんて野心は、これっぽっちも持っていやしない。ただ、風を受けて回る風車のように、流れに沿って生きて、その合間に一瞬でも何か楽しいことが降ってきてくれればいい。それ以上の人生なんて望んでいない。ごく慎ましやかな人生の在り方だ。世の中には、もっと正されるべき思想の人間が大勢いるだろう。それなのになぜ、こんなささやかな生き方を赤の他人に邪魔されなくちゃいけないんだ……。  グルグルと思考が駆け巡る。頭の中で、いかにあの部長を罵倒するかに注力を費やしていた太郎は、すっかり周りが見えていなかった。そのため、昇降口付近までやってきたとき、ドシンと誰かの背中に、したたかにぶつかってしまった。 「ってえな」  顔を上げると、金髪の少年が背中をさすっていた。  隣には坊主頭の少年が立っており、二人ともカバーに包まれたテニスのラケットを持っている。  太郎は、テニス部の人間だ、と思いながら、慌てて謝罪を口にした。 「す、すみません」     
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