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太郎は小松岡と錦巻の顔を見返した。金髪を逆立てた小松岡。坊主頭に三連ピアスの錦巻。ふたりとも、ズボンを腰で履き、はだけたワイシャツの胸元からはクロムハーツと思しきシルバーネックレスが下がっている。これまで太郎が出会ってきた人種の中でも、もっとも“DQN”に近い人間であることに間違いなかった。
自分がこのふたりのテニス部にいることを想像してみる。完全にパシられる運命しか思い浮かばなかった。いくらテニス部が華やかな部活と想像していたとはいえ、こんな不良すれすれの人間が牛耳っているとは、予想外だった。
すっかり怖気づいた太郎は、気づけば
「そ、そんな、僕部活には入るつもりないんで……」
と口走っていた。さっきまで「テニス部に入ってやる」と息巻いていた勢いは、すっかり消えてしまっていた。
――僕はなんてヘタレなんだ……。
と太郎は自己嫌悪しそうになったが、今は草食動物である自分に鉤爪をたてる目の前のハイエナたちから逃げおおせることのほうが重要だ。
「ああん?」
案の定、小松岡が眉を寄せてすごんでくる。
(な、なんだこの人ら! テニスって王子様のスポーツじゃないのかよ! こいつらテニスのチンピラだよ!)
ある程度想像してはいたが、今度はグイと錦巻に胸ぐらを掴まれた。
「お前さあ、自分の立場わかってる? 一年が、三年の先輩に歯向かっていいわけ?」
「ええっと、しかし、ですね、その……」
「めんどくせえな、殴っちゃおうぜ」
「そうするわ」
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