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小松岡がシルバーの指輪をはめた拳を振り上げる。完全に殴られる。ああ、今日はなんて最悪な日なんだ……。神様なんて、やっぱり、いやしなかった。太郎は己の不幸を呪いながら、ぎゅうっと目を閉じた。――そのときだった。
「ちょっと待てえい!」
廊下に雄々しい声が響く。見れば、廊下のど真ん中で、なんと山田部長が腕を組んで仁王立ちしているではないか。
「そいつは、我が山田部の大切な部員だ。テニス部なんぞにくれてやるわけにはいかないな」
バリトンの澄んだ太い声が廊下に響く。
(おい、山田部に入ったつもりはないぞ……!)
と太郎は突っ込みたかったが、この状況で超絶ヘタレの太郎に言葉など発せられるわけがなかった。
「はぁ? 山田部?」
小松岡が「何言ってんだこいつ」と錦巻を見る。
錦巻は、太郎の首根っこを抑えたまま言う。
「なんかイベントごとにわけわかんねえ出し物してるとこだろ。知らねーけど」
顔を見合わせる小松岡と錦巻。結構な山田部への侮辱ではあったが、山田部長はお構いなしに、再び声を張り上げた。
「太郎から手を離せ」
さすがに長身の山田に詰め寄られ、ふたりは危機を察したのだろう。
「いやいや、別に、ただ遊んでただけだし?」
小松岡は、「冗談通じねえな」と言いながら手を引っ込めた。だがそこで太郎を解放せず、彼の肩にわざとらしく手を回した。
「にしてもよ? 山田部の部員ってどういうこと? こいつはテニス部に入るんだけど?」
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