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「誰が礼なんて言うか! 誰が! 僕、テニスなんて全然得意じゃないんですけどお!? 何勝手に約束取り付けちゃってくれてるんすか! 大体、僕はテニス部どころか山田部にも入るつもりはない……!」
それは太郎にとって、ありったけの剣幕だった。だが、山田部長は、
「何も言うな」
と、あっさりと太郎の罵声を遮った。その顔には、柔らかな微笑が浮かんでいる。
(なんだよ、この人……なんでこの状況で笑ってられるんだ? 明日、テニス部の主将と勝負しなきゃいけないっていうのに……)
太郎の疑念に答えることなく、山田は「帰るぞ。お前も明日に備えて寄り道なんてしないで真っ直ぐ帰れ」と言い残し、すたすたと去って行ってしまった。
今度こそ、廊下にひとり、太郎は取り残された。あれだけ鳴いていたカラスも、もはや塒に帰ったらしい。太郎は「なんだったんだ……今日は……」とぐったり全身に疲労を感じながら、トボトボと家路についた。
こうして、太郎の高校生活一日目は、ようやく幕を閉じたのだった。
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