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ボールが太郎たちのコートに着地し、バウンドする。ブレザーにまとわれた山田部長の腕が、逃すまいと大きく振りかぶられる。だがボールは、軌道を逸れて、あらぬ方向へ飛んでいった。あまりに不条理な展開に、太郎は思わず叫んだ。
「ちょ、今ボールがありえない動きしたんですけど!?」
「見たか! 俺様の軌道フォロー異次元サーブを!」
小松岡主将が得意げに叫ぶ。
「山田先輩、今明らかに重力に逆らってましたよね」
「ああ、あなどれんな」
「あなどれないっていうか、もう予想外なんですけど」
と、太郎と山田部長が悔しげにテニス部チームを見る中、しわがれた声がコート内に轟いた。
「フィフティーン・ラブ!」
いつの間にいたのか、審判らしき中年男性が高らかに叫んだ。
「誰だ、あのオッサン!?」
と瞠目する太郎。
コートの審判席には、ポロシャツにスラックスを着て、サングラスをかけた五十代後半くらいの男性が立っている。
「あのオッサン誰っすか!? いつの間にいたんだ!?」
「どこかで見たことあるぞ」
山田部長は、じっとオジサンを見つめる。
「え、先輩、知ってるんすか?」
「よく気がついたな」
と錦巻副将。その表情は今にも自慢したいのをこらえているような顔だ。
あの人、そんなに有名人なのか……。
「あの人はな、坂をくだったところにある駄菓子屋のオヤジだよ!」
「全然ドヤ顔で言うことじゃない!」
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