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「でないと、次の一球でお前らのどっか壊しちゃおうかなー」
太郎はゴクリ、と喉を鳴らした。まるで予想だにしないボールを繰り出してくるこいつらのことだ。あんな時速何キロかもわからないボールが体に当たれば、骨折どころでは済まされないかもしれない。それならば、今のうちに降参して、大人しくこいつらのテニス部に入ったほうが賢明なのではないか……。
太郎の頭に、諦めの白旗が挙がる。彼は、おずおずと両腕を上げようとした。しかし、その時。
「やめろ」
ガシ、と山田部長が太郎の腕を掴んでそれを阻止した。彼の瞳は、射抜かんばかりに鋭く太郎を見据える。その圧倒的な眼力に、太郎は一瞬ひるんでしまった。
「なっ……」
「太郎、お前、このまま諦めるのか」
諦める? 一体この男が何を指して諦めるなどと言っているのか、太郎には理解できなかった。
「諦めるって、何をですか……」
「変わりたいのだろう? まがい物ではなく、本物の青春を送りたいのだろう? 今奴らの言いなりになれば、お前は高校(ここ)でも負け組だぞ」
負け組。その言葉が、太郎の胸に刃のように突き刺さった。中学時代、取るに足りない人間と認定されていた苦い思い出がよみがえる。
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