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少年は愛想笑いを浮かべ「あ、すみません……」とこちらが悪いわけでもないのに一言謝り、
「拾ってくれてありがとうございます、それ、職員室に出してこなきゃいけないんで、返してもらえませんか」
しかし、男子生徒は入部届けを返す素振りをいっさい見せず、無言で少年の顔を見据えた。
「あの……返してもらえませんか……?」
こう言ったものの。男子生徒は少年の今の言葉を一切無視して、グワシ!と彼の両肩に手をかけた。そして次の瞬間、廊下中に響き渡る声で言い放った。
「山田太郎! お前は今日から山田部の一員だ!!」
オペラ歌手もかくやというバリトンのすさまじい激声が、ビリビリと少年の鼓膜を振動させた。そしてキーン、と耳鳴りがやってくる。
山田太郎。どこにでもいる、名前すらありきたりのこの少年は、(入部届けの紙で知った名前を大声で叫ぶなよ……)と思いつつも、この理不尽な状況のただ一点にだけ疑問の照準を当てた。
――山田部。山田……山田部!?
そして、気がついたときには、それまでの人生の中で一番に声を張り上げていた。
「山田部ってなんですかっーーー!!??」
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