ACT.1 山田部とかいうよくわからない組織

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 山田太郎少年が、自分が人生の主人公でないということに気がついたのは、いつからだったか。それは、人生において、そう遅くない発見だった。 まあ、もともと山田太郎とかいう、平凡極まりない名前のおかげで、いささかその傾向は感じ取っていた。  この十六年間で、学級委員になったことなんて一度もなければ、バレンタインで義理チョコの十円チョコやブラックサンダー以外のチョコをもらったこともなし。文化祭ではいつも村人Aの役。  極めつけだったのは、中二のときの体育祭だったか。男子科目はサッカーで、太郎は運良くゴールを決めたのだ。 「っしゃあ!」 ガッツポーズをして、チームメイトたちが称賛を送ってくれることを期待して、後ろを振り向いた。しかし、その先には、誰もいなかった。 「ほら、ボールそっち行くぞ!」 「三組がんばれ~!」  サッカー部の主将をしている男子生徒が指揮をとり、応援席の女子生徒は、みんなそっちを見ていた。 ――おいおい、そりゃねえだろ!  と太郎は前頭葉あたりで思った。悲しかった。いや、その悲しみを乗り越えて達観すらした。    で、あるがゆえに。 (人生の主役は自分ではないのだなあ)     
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