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山田太郎少年が、自分が人生の主人公でないということに気がついたのは、いつからだったか。それは、人生において、そう遅くない発見だった。
まあ、もともと山田太郎とかいう、平凡極まりない名前のおかげで、いささかその傾向は感じ取っていた。
この十六年間で、学級委員になったことなんて一度もなければ、バレンタインで義理チョコの十円チョコやブラックサンダー以外のチョコをもらったこともなし。文化祭ではいつも村人Aの役。
極めつけだったのは、中二のときの体育祭だったか。男子科目はサッカーで、太郎は運良くゴールを決めたのだ。
「っしゃあ!」
ガッツポーズをして、チームメイトたちが称賛を送ってくれることを期待して、後ろを振り向いた。しかし、その先には、誰もいなかった。
「ほら、ボールそっち行くぞ!」
「三組がんばれ~!」
サッカー部の主将をしている男子生徒が指揮をとり、応援席の女子生徒は、みんなそっちを見ていた。
――おいおい、そりゃねえだろ!
と太郎は前頭葉あたりで思った。悲しかった。いや、その悲しみを乗り越えて達観すらした。
で、あるがゆえに。
(人生の主役は自分ではないのだなあ)
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