0人が本棚に入れています
本棚に追加
「行かねえよ! 離せよこの野郎!!」
太郎はありったけの怨嗟をまき散らし、戒めから逃れようともがく。だが、太郎とこの男子生徒との腕力には雲泥の差があり、とうてい振りほどけるものではなかった。なすすべもなく太郎は、上履き用のサックスブルーのスリッパを廊下にすべらせながら廊下を横断していく。
悪態をつく太郎と、彼の矮躯を引きずる男子生徒。そして太郎が廊下を引きずられること、数分。
「ここだ」
やおら男子生徒は立ち止まった。太郎が連れて来られたのは、一階最東の階段下の、物置スペースだった。
廊下と室内を隔てるのは、すりガラスの嵌った、くすんだ水色のドア。すりガラスには、コピー用紙がセロテープで止められている。そこにはマジックで乱雑に「山田部」と書かれていた。
「やまだ、ぶ……」
ぼんやりと、その言葉を口に出す太郎に、男子生徒は深く頷いた。そしてドアノブを回して薄汚いドアを開け、太郎を乱暴に中に押し込む。
「イテぇ! 何するんすか、いきなり!」
「まあ、そいつにひとまず挨拶しろ」
「……は?」
そいつって、誰だ? 疑問符を浮かべながら、太郎は室内を見回す。決して広くはない部屋だ。いや、むしろ狭い。
最初のコメントを投稿しよう!