深緑の夜に

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「ごめんね」と、あの人から話し始めた。 「大丈夫ですか?」と訊くと、手にしたペットボトルを凝視しながら、うなずいた。大丈夫じゃないじゃないか、と俺は思った。俺だって、大丈夫じゃない。少なくとも、俺は大丈夫じゃない。まっぷたつの結論に俺たちは一緒に打ちひしがれていた。酔った勢いならよかった。遊びならよかった。単純に出来心とか、そういうのなら、どれだけ俺たちは救われただろう。でも違った。俺たちはずっと前から、お互いに触れることなく「エネルギー」のようなものをふたりの間で循環させていたのだ。それに気づいてしまった。だからあの人は反射的にタクシーに乗ろうとし、俺は抱き寄せたのだ。  人の身体というのは、ずいぶん厄介だな、と俺は思った。俺たちは求め合っていた。「エネルギー」を、「意識」や「心」では足りず、お互いの身体をつかって、もっとダイナミックに循環させて、まったく新しい、爆発するようなものを体感したかったのだ。まあ、もっとカンタンに言えば、俺たちは、やりたくてやりたくて、たまらなかったのだった。それは、正直に認めるなら「愛し合いたい」ということだった。この湧き上がるものは、いわゆる「愛」なのか「単なる欲情」なのか、ダメ押しで確認したい、ということだった。でも俺は知っていた。 「こりゃ愛だべ。愛に決まってるべや」と。
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