CASE.3

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 ブー、ブー…  音が鳴るだけで発狂しそうになるせいでもうずっとマナーモードの携帯が、父からの着信を伝えていた。案の定出られるわけもなく、音が止むのをひたすらに待つ。今日の着信の理由は分かっていた。去年亡くなった従兄の一周忌に出るだろう、という半ば強制的な話の連絡だ。  分かっているのだ。  今の状況をどう説明したって分かってくれないことも、数年前に自殺未遂をした兄がどうしてそんなことをするほどの精神状態になったのかを父が少しも理解しなかったことも。  幼い頃に、人望も厚かったが、酒癖の悪さでも有名だった父。元々内気な長男は、父の虐待や高圧的な態度のせいで精神的に異常をきたしていた。家を出ても対人関係や自分のストレスの処理がうまくできず、溜まりに溜まって爆発した。  致死量の睡眠薬と鎮痛剤を飲み、腕に深く包丁を入れたのだ。  借金を溜めたことにより、怒られるのに怯えて父からも逃げていた長男を、匿うように我が家に住まわせたのは私自身だった。人の為になることをするのは、私の中では大切な存在意義でもあったから。  しかしそれも裏目に出て、結局一人暮らしの我が家は血の海になった。トラウマになるには充分のその凄惨な光景は、どんなに日を重ねても忘れることはできないままだった。  私は誰も助けられないし、誰も私を助けてもくれない。そんな考えが次第に私の内側を埋め尽くしていった。  体調が良かったときは意見交換をしながら尊敬もしていた父が、また疎ましいものに変わる。理解されない理不尽が、私をまた追い詰めているのだった。  一周忌。それは亡くなった人を供養する日。  けれど、今生きて苦しんでいる私が行かなくてはならない場なのだろうか。そう思うこと自体が不謹慎だとも思うからこそ、心も頭も痛くなった。家族を大切にしたい気持ちは分かる。親類もその枠にいることも分かる。私だって、元気でさえあればちゃんと供養に行きたいし、親戚みんなにも会いたいと思う。なのに、できない。ちょっとしたストレスで寝込む。摂食障害も再発して、咳がなぜか止まらなくなった。  そんな中で、一周忌。  何度も病院に通い、薬は抗不安薬、抗うつ薬と様々なものを試すことになった。そうなると、働けない私にはお金の不安と精神的な負担がまたやってくる。そうして副作用にも悩まされ、効かない薬をいくつも試す日々が続いた。
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