Name is Riruka.Aled

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Name is Riruka.Aled

その、奇抜な恰好と衣装。  その、畏怖と狂気を圧縮したような視線。  そして、佇むだけで感じ取れる、辺りを掌握する異様な雰囲気。  その、女を現すには異常という言葉だけで片づけられる。  その出雲の尖った視線を集める女は、半身の状態で首だけを出雲に向け振り返ると、一見大きめの日傘にも見える物を片手に持ち、その先端を出雲に合わせ向け不気味に笑うと威嚇するように声を荒げる。 「腐れ、ハイブリッドまがいにぃ!腐れ、エレクトリカぁあああ!!」  声を荒げた女は、不意にガクンと首を垂れ下げ、顔を沈み込ませるように伏せる。 「…まとめて。」    女はうって変わって、小さく、重く、声を響かせた。 「…あの世に。」  不気味さの強調、畏怖の狂信、恐怖の象徴。  女を見たものに感染するように伝心する死を司る様な禍々しさにも似た感覚。  そして、漂わせる雰囲気を増長するように女はガバッと顔を上げ声を再び荒げた。 「送ってやんよぉおおおッ!!ふはっ、かか!」  見開いた眼、歪んだ口角、尖った犬歯に荒げた語尾。  女は歪な自己を表現する演出としては100点満点の悪その者の態度を披露すると、周囲に怒気と殺意をまき散らしたのだった。 「やんよやんよ、うるせーんだよ。ちったー黙れイカレ女ッ!!」 「ふはっ、つれねーなぁ。…あたしなりの、これから死ぬ奴への手向けなんよ。葬式代も花束もやれねーかんよぉ!!せいぜい、拝んでくれよぉぉお。あたしの姿を♡」  女は何故か落ち着きを取り戻したように嘲笑するような言葉を出雲にかけるとその場でヘラヘラと笑いだし、日傘の様な物の手元の柄から伸びるコードを引いた。  コードを引いた瞬間、ブルルッと女の手に持つ物が振動し同時にブルンッと一際大きな音が鳴り響く。継続するように鳴るドッドッドとエンジンがアイドリングする様な音と女が柄のレバーを握りこむ度に回転数を上げるようなブイーンというけたたましい音が鳴り響く。  ヘラヘラとなめ腐った表情を披露する女が持つに相応しい狂気と呼べるその武器。ケタケタと笑う女の異様さに呑み込まれそうなるが出雲は女に微笑み返すと知っていたかのように言葉を発する。 「おいおい、いい趣味はしてんなっ!!…それ、リコイルスターター付のトリガーエンジンブレードだろ。だけどな旧時代の遺物だぞ。」 「ハッ、クハッ!…よーーーく、わかってんじゃねーか。腐れのくせにぃ♡。」  出雲も余裕を持った表情で、その女の持つ武器を旧時代の遺物と比喩し小馬鹿にすると女も笑い声を上げ人を食ったような表情で微笑み返す。しばし、お互い視線をぶつけ合った後、出雲は小さく笑、女に左手のバイブロを見せつけるように掲げた。 「…ははん、いい趣味は認めてやる。…だけどなぁッ!今の時代は、バイブロだろっ!クソ女ッ!!」 「くっはっはー、かか。…あー、うぜぇーーー。」  両者舌戦の後、互いに武器を相手に見せつける。  一瞬膠着するがお互い臨戦対戦なのは明白でそんな膠着した間は長くは続かなかった。 「死ねよぉー♡………腐れぇ!エレクトリカっ!!」  痺れを切らしたよう、女が甘い声を出した後、更に自身の瞳孔を大きく開、威嚇したように語尾を荒げる。そして、言い終えると同時に右手に持っているエンジンブレードのトリガーを握りこむ。    バンッ、ババンッ  銃弾が射出されたような火薬がはじけた音が響くと女の持つエンジンブレードの先端から銃弾が出雲に向けて放たれる。 女の武器から射出された弾丸は拳銃で撃った弾のようにきりもみ回転すると高速で出雲の顔目掛けて飛んでくる。  一瞬の出来事、いきなり始まった戦闘の始まりだが出雲も薄暗い中それに反応する。注意深く観察していたかのように女のトリガーを握るタイミング、発射音、マズルフラッシュにも似た閃光、自分に向けられた女の持つ凶器の先端と殺意、全てに気づくと自身の左手に持つバイブロハンマーの分厚い金属で覆われた部分で弾丸を弾く様に受け止めた。  ガギーンッと金属と金属が激しくぶつかった音がし弾丸は出雲から逸れるように後方の壁に食い込む。 「あめーよ。バイブロなめんなよ。そんなんじゃ傷もつかねーよ。」 「くはっ、いいねぇー。腐れのくせにやるじゃん、お前。…まっ、カスには変わり、ねーけどな!!」  女のその言葉を合図に、出雲は女に向かって低い姿勢で距離を詰めるよう走りだす。 「いくぜっ!!」 「こいよ。…白けるから、命乞いなんかすんなよー。腐れエレクトリカぁ♡」  女はそう言い放ち自身の身をくねらせ笑った後にググっと身を縮めると戦闘態勢に入る。そして、ギリッと強くエンジンブレードのレバーを握りこむとその歪に回転する刃を隠していた日傘に見えた布部分を細切れにはじけ飛ばし完全に自身の持つ武器の刀身を露出した。  不規則に回転する刀身はチェーンソーのような音をたて空気を切り裂く。そのデコボコの刃は相手を威圧するように回転を繰り返すと、抜刀したと同時に恐ろしい膂力で地面を踏みぬき出雲に向けて飛び掛かる。 「はっ、死ねよ腐れッ!!」  初手は飛び込んできた出雲に向けカウンター気味に入った女の横薙ぎの一閃。   「あめぇ。」  ブーンと空を切る音があたりに響く。  出雲は女の一閃を極最小の動きで体を更に沈み込ませかわす。  「まぁぁーだだぜぇぇッ!!」    初手をかわされた女だがわかりきっていたかのようにすかさず体を横に1回転させると、追撃を斜め上から振り下ろす様に力を込め放つが、出雲はバイブロハンマーの対象をつかむチャック部分を器用に使い女が武器を振り下ろす前に相手の武器を固定する。  ギャギャギャっと連続で金属が無理やり擦れる音がし、摩擦で高温になった互いの武器からは鉄粉と火花が巻き上がる。薄暗い地下道でオレンジ色の火花と轟音をまき散らせ両者は至近距離で力比べをするように体を近づけ睨みあう。 「てめぇ『レネゲイズ』だろ?」 「はっはぁ、私はリルカだ。リルカ・アルデだ!…死ぬ前に知れて、よかっただろー♡ 」  出雲の問いかけに自身の名前をヘラヘラと告げた女は更に煽るように言葉を返した。 「質問の答えになってねぇーぞ、クソ女!!」 「くはっは。Name is Ri.ru.ka♡」 「F※※K Yourself!!〈黙れっ!!〉」  英語でリルカと名乗る女の小馬鹿にしたような猫撫声に出雲も英語で言い返すと更に自身の身に着ける左手のバイブロに力を込め相手を押し込む。だが、それに反応したリルカは自身の手に持つブレードを一瞬手離し身を屈めながら斜め横に小さく空中で一回転すると右足の回転蹴りを出雲の顔目掛けて叩き込んできた。 「Take This!!」 「っ!!」  出雲もリルカの回転蹴りに反応し自身の右腕で受けようとするが、女性とは思えないどころか、常人と比べても明らかにおかしな異常な脚力に押し込まれるとガードした腕ごと自身の体を跳ね飛ばされてしまう。 「がっ!?」  出雲は短く声を上げると叩きつけられるように地面を数回バウンドするが、反動を利用しなんとか地面に手を添えると、自ら転がるように体を捻ると、すぐさま態勢を立て直した。 (なんつうー力だよ、こいつ。マジで女かよ?)  出雲はリルカの馬鹿力ともいえる脚力に驚きの声を心で漏らすが、すぐに相手を視界に捉え身構えようとする。だが、リルカはすかさず追い討ちをかけるべく地面に転がる自身の武器、エンジンブレードを走りながら片手で掴むと、そのままの勢いで態勢を立て直したばかりの出雲に突っ込んでくるのだった。 「死ねよっ!!腐れエレクトリカァァァ!!」  とどめの一撃を食らわすべくリルカが怒声を上げエンジンブレードを出雲に向けて上から振り下ろそうとした。  刹那。    自身を切り裂くべく振り下ろされた刃が迫るにも関わらず、全く怯むことなく出雲は不敵な笑みを上げるとリルカを指差し言葉を返した。 「お前がな。」  バチンッ  いきなり暗闇の中で青白い閃光が音を立てて周囲に煌めくと出雲に飛び掛かるリルカに不規則な道を作りながら、その閃光はリルカの背後から光速でリルカに襲い掛かると対象の体を貫く。 「がっ??!」  短く上げたリルカの悲鳴。  リルカの体を貫いた雷は更にバチバチっと電気の渦を作ると、空気が爆ぜる音共に青白い閃光は暴れるようにリルカの体を駆け巡った。 「があぁぁァァァあああ!!」 「さすが。タイミングに痺れるぜっ。」  感電したリルカの悲鳴が周囲に響く中、出雲は右手の人差し指を雷の飛んできた方向に向け指し示すと左目を閉じウインクする。それに応えるよう暗闇の先に居るその人物も自身の右腕を出雲に掲げるのだった。  予想していなかったの雷の直撃を自身の体に受け、その場で跳ね上がるように体を震わし悲鳴を上げたリルカだったが、身を落とし痺れる体で地面に膝と手を付くと自分を襲った雷の飛んできた方向をすぐさま睨み返し威嚇するように声を荒げた。 「クソがぁああ!!…邪魔しやがってっ!!誰だ、テメェ?!!」  リルカが叫びを上げ、目を向けた先には自身に雷を纏い細かく周囲に放電する布志名の姿があった。 「誰って言われると…そいつの相棒。ってとこかな?ふふっ」  リルカの問いかけに余裕の笑みをつけて答えた布志名は警戒しながらも、出雲に声を掛ける。 「大丈夫か?出雲。」 「ああ。問題ねーよ、っと!」  布志名の言葉に出雲は飛び上がるようにその場に立ち上がると、布志名に近づき声を掛ける。 「正直助かったぜ、サンキュー布志名。」 「どういたしまして。」  お互い言葉を返すと出雲はいまだ地面に膝をつくリルカを指差し、布志名に合図する。 「布志名。…あの女、間違いなく『レネゲイズ』だ。」 「了解。…相手のRage Effect(エフェクト)は?」 「まだ見てねぇ!…ただあの女。無しでも、かなりヤベーけどな…。」 「了解。十分注意する。」  二人の短い情報交換の様な会話が終わると出雲は振動型電光ナイフを腰の右に着けたナイフホルスターから逆手で握り抜き取る。そして右手を顎を引いた顔の前で引く様に構えると左手のバイブロを前に突き出し再び戦闘態勢に入る。布志名も出雲とリルカの様子を確認した後、再び体に雷撃を纏い相手を威嚇する様に周囲に稲光を走らせた。 「2対1が卑怯だなんて言うなよ。うちらはチームだからなっ!」 「だな。これも力だからな。」  出雲の言葉に布志名は肯定するよう言葉を返すと、リルカに鋭い視線を向けた。  雷の直撃を受けたリルカだったが片膝をついた状態からゆっくり立ち上がると、ビキビキっと血管を浮かし自身の体を怒りからかワナワナと震わせる。そして自身の右手に持つブレードを地面に思いっきり突き刺した後、地面をえぐる様に斜め上に切り上げ虚空を切り裂いた。  癇癪を起し荒れ狂うような様子を見せたリルカだったが、急に落ち着いたように息を大きく吐くと視線だけを二人に向け尖らせた。 「…調子にのんなよ。…カスの分際で。」  先程までとはうってかわって、おどけた様子も怒り狂う事もなく、小さく、重く、言葉を呟いたリルカはようやく本腰を入れたように身構えると唾を地面に吐き捨てる。   「うぜーんだよ、お前らは―――」 「…うぜー。…うぜー。…うぜー、うぜー、うぜーうぜー!!」  リルカは同じ言葉を何度も吐き捨てるように呟き語尾を荒げていくと、徐々に力を増す言葉に比例する様、自身の身にドス黒く湧き出たような殺意を纏うよう解き放っっていく。  リルカの瞳はより対象を痛めつける様ギラギラと殺意を放ち、野生の獣の持つ獲物を漠然と殺す意思を伝えてくる。ビリビリと空気を歪めるように震えさせギリギリと歯を噛みしめ音を鳴らすと溢れんばかりの怒気をまき散らしながら前に歩みを進める。 「―――やんよ。」    更に怒気により、浮かび上がる血管。 「…やってやんよ。」  更に瞳孔の開いた眼で出雲たちに殺意を訴えかける。  リルカは体の筋肉をビキビキと脈動させギリギリと歯を鳴らした後、荒れ狂う様に顔をいきなり上げると言葉を荒げた。 「やってやんよぉーーー!!腐れエレクトリカあぁああああ!!」  その形相は人と呼ぶには余りにも悍ましく怒号を上げたリルカはまさしく人外、獣と呼ぶにふさわしかった。そして、自身のポケットから荒々しく何かを左手で取り出すとそれを口の中に押し込む。 「くんぞ、布志名ッ!!」 「ああ!…これは…凄いな。」  出雲と布志名はリルカから放たれた圧に少し後退するように身構える。  リルカが放つ常人ではない殺気と圧力に押され少し嫌な汗が噴き出るのをお互いに感じ取る。  いつでも戦闘が始まる雰囲気を漂わせ両者が膠着すると睨みあう。  2対1、ましてやエレクトリカ2人に対峙した身でありながら少しも怯みも見せないどころか、不気味さをどんどん増していくリルカに少しずつ恐怖心を植え付けられる。暗がりでより輝かせた赤く濁った瞳に殺意を灯し、場を掌握するように佇むリルカが口に入れた何かをかみ砕こうとした瞬間だった。  ♪♪♪  突如、場を乱すようリルカの携帯から一昔前の洋楽が大音量で地下道に鳴り響く。  周囲に殺意を撒き散らすリルカだったが徐に携帯を取り出し画面を見ると、目を見開き驚いたような表情を見せた後、取り出した携帯を力を込めた左手で握りつぶした。  リルカは吐き出しそうになる言葉を必死で飲み込んだような表情を見せると、チッと小さく舌打ちし、嚙み砕こうと自身の口に入れたカプセルを地面に吐き出すと身に着けていたブーツで力いっぱい踏み抜く。 「…そりゃー。…ないぜぇー。」  突然横やりを入れられたように沈み込み顔を俯かせたリルカだったが、徐々に苛立ちを爆発させるよう体を震わせると気持ちを吐き出すよう叫んだのだった。 「ここで終われって言うのかよッ!!アクティビスタぁぁあああ!!!!」  湧き上がる怒りを言葉で吐き出しリルカは力任せにエンジンブレードを地面に叩きつけると出雲たちに視線を合わす。 「…くはっ。…撤収、だとよぉ。笑えんだろ?ほんっと、ありえねー。」  リルカは呆れて少し含み笑いしそうになるが不貞腐れたというより、少し眉尻を下げ申し訳なそうにも見える雰囲気を醸し出すと、力なく微笑した顔を二人に見せつけた後に口を開いた。 「命拾いしたなぁ、お前ら。…今回はひいてやんが、次は殺す。…かーんな♡」 「ああん?!なにい――」 「あんまり、しつこいと女の子に嫌われんぜっ♡…じゃあな、腐れエレクトーリカ♡♡♡」  出雲が言葉を返す前にリルカは一方的に二人にそう言い放ち片目を閉じウインクすると最後におどけた様に舌を出した。そして、すぐさま地下道に差し込む光の方へと目を向け、そのぽっかり空いていた大穴に向け人間とは思えない跳躍力で地面を踏み抜き跳躍すると、その場から跡形もなく立ち去ったのだった。  リルカが2人の視界から突然姿を消し、いきなり戦闘の終わった二人はお互いに不思議そうに顔を見合した後、出雲は張りつめていた緊張感からかその場に倒れこむようにして地面に寝そべった。出雲にとっても消化不良に終わった戦闘だったようで不機嫌そうな顔を布志名に披露し、ぐちぐちと不満を吐露し始めた。 「布志名!なに、あいつ?!頭おかしいのはわかってたけど、なんなの?自制が利かない状態にも関わらず、延長が利かなかった風俗みたいな気分なんだけど、俺。…もやもやMAXです!!」 「ははっ、なんだよそれ?」  布志名も出雲の言葉に笑いながら答えると、出雲の傍で腰を落とし地面に座る。 「しかもだよっ!一方的に怒って情緒不安定まき散らした挙句、勝手に去って行って。…スーパーメンヘラじゃねーか、あいつ。…まあ、ヘラってる娘でも、俺は全然いけるけどな、あいつは嫌だけど。酔った(かえで)の酒呑童子モードくらいヤダ。絶対無理ぃッ!!」  出雲は寝そべったまま、ゴロゴロと駄々をこねるように体を揺らし自身の首を嫌そうな顔で横に振り不満を吐きだす。 「ふはっ。おまえーwww。怒られるぞ、生駒ちゃんに。」  布志名は出雲の口から出る不満を静かにうなずき聞いていたが、出雲が最後に吐き捨てた余計な一言に噴き出す様に苦笑いするのだった。 「アアーーー、無理だー。俺は無理だねぇー!あいつら、2人は人じゃねぇー!あの女にしても布志名のビリビリ食らった直後に動いたり、あいつ本当に人間かぁ?改造人間か。…もう、あれだ!アレスタついた変圧器か雷サージなんかじゃねーの?」  寝転がったまま駄々をこねていた出雲だが、不思議そうな顔で布志名に顔を向けると先ほどまで交戦していたリルカの事を尋ねた。 「なんだよ、その例えwww」  布志名は出雲らしい例えに少し顔をほころばせ会話を続ける。 「…でも、出雲。確かに加減はしたんだ。加減はしたけどが動けるほどにはしていない。…まあ、十中八九レネゲイズで間違いないんだろうな。」  布志名は出雲に顔を向け首を何度か小さく頷く。出雲もそれに応えるように自身の首を小刻みに降ると布志名に言葉を返した。 「だよなー。むかつくわ、うっとしいわ、耐久力化物だわ。頑固でしつこい風呂場の鏡汚れみたいなやつだったなー。…さすがに疲れるわ、俺。」  出雲は言葉を吐き捨てると仰向けの状態から腕を大きく上に伸ばした。 「ふふ、お疲れさん。…と言いたい所だけど、お前は大事な仕事が残ってるんだろう?」  布志名が少し意地悪そうに微笑みながら出雲に問いかけると出雲は自分の上半身を起こし言葉を返す。 「まあな。俺らが怖くないって少しだけ分かってくれたみたいだし。ねっ。」  出雲は語尾を上げ、なりかけの少女に顔を合わすと片目を閉じ笑いかけた。二人は会話をずっと続けながらも『なりかけ』の少女の動向に目を向けていた。リルカの明確な殺意を受け殺されそうになり心にも恐怖心を植え付けられた少女だったが、自分を確かに守ってくれた出雲たちに対し少しだけ心を開く様に二人に視線を合わせ口を開くのだった。 「ゴ、ゴメンナサイ逃げたりして。アイツラにミンナ殺されたから怖くて…。」 「無事ならいいよ。むしろ、恐がらせてごめんね。痛い所とかは無い?」  なりかけの少女は先ほど戦闘で見せていた粗々しさを全く感じさせない出雲の優しい口調に少し申し訳なさそうに顔を俯かせると会話を続けた。 「ダ、ダイジョブ…です。」 「ほんとかなー?遠慮はしてないー?…っと。」  出雲は会話を返すとその場に立ち上がり『なりかけ』の少女へゆっくり歩き出す。そして、少し震えながらもその場で佇む少女に出雲は膝を曲げ少女と目線を合わすと少女の頭を撫でるのだった。 「今まで怖かったよな。でもさ、もう大丈夫だから。俺達こんなだけどすげーえんだぜ。なんと、お医者さんの資格も持ってるんだぜ。」 「お、お医者…さん?」 「そっ。またの名をエレクトリカです。」  出雲はそう言い左目を瞑り笑いながら少女に語り掛けると少女の頭をポンポンと連続で叩く。そして、地面に降ろしていた救急箱から一つのアンプルを取り出しポンプに装着すると注射針をセットした。 「注射恐いよなー?…あそこでイケメンぶってるお兄さんいるでしょ?」 「う、うん。」  注射針に若干緊張した素振りをみせた少女の表情を感じ取った出雲は『なりかけ』の少女に布志名を指差しながら言葉を掛けると、少女は誘導されるように布志名に視線を合わす。 「あのお兄さん、注射嫌いなんだぜ。この前体調悪くなって点滴する時にさー。「打たなきゃだめですか?」としつこく医者に聞いた挙句、看護師さんに注射嫌いなんですかって笑いながら聞かれてさー。あのお兄さん「はは…口から飲んだら駄目です、よね?」って真顔で聞きかえしたらしいぜ。」 「…ぷっ。」 「馬鹿だよなー。しかも俺にさー、『注射刺されるよりさ、お尻から注入されたほうがいいよね。』って、イケメンスマイルで喋りかけてきてさー。頭おかしいんじゃねーかこいつって思ったもん。」  出雲から少女に伝えられた布志名のプライベートな赤裸々内容に、少女は布志名を見ていた視線を外すと口元を大きく開けて笑うのだった。 「まあ、恐いものは誰にもあるからね。ふふ。」  自分の恥ずかしいエピソードが離されているにも関わらず、布志名は全く気にすることもなく二人に清涼感のある笑顔を見せると言葉を返す。 「ふふ。…じゃーねーよ!イケメンだからって、何でも許されると思うなよっ!…ごめんねー、馬鹿なお兄さんで。…じゃあ、少しチクッとするけど我慢してね。」 「は、はい。」  出雲は布志名に言葉を返した後再び少女に視線を合わし言葉を掛けると自身の右手に持つ注射器を少女の左腕に慣れた様子で刺した。そして、針を抜いた時にできた少女の腕についた搾刺部に猫のキャラクターのついた保護パッチを張り付けたのだった。 「はい。よく頑張りました。…これで、とりあえず大丈夫だから。地上まで一緒に行こっか。」 「う、うん。」  その出雲に返された少女の笑みは先ほどまでとは違い、怯えるような眼差しも周囲を常に警戒していた擦り切れた心もなく、屈託のない可愛らしい笑みを出雲に向けるのだった。そんな自分の思いに応えてくれた少女に出雲もとびきりの笑顔を返すと少女に手を差し伸べた。 「じゃ、行こっか。」 「うん。」  出雲が優しくそう伝えると少女は言葉を返す。そして、怯えることなく出雲の手を握り返したのだった。
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