Gifted

1/1
前へ
/13ページ
次へ

Gifted

出雲の連絡を合図に、G30討伐及び救出作戦が開始されて5分が経過していた。  未だスタートエリアに陣取る出雲は、レシーバーをつけると無線機の電源を起動させた。 「あ、あ、あ。」 「…聞こえる?…聞こえてんなら、返事返して。…聞こえますかー?」  出雲が腕につけた小型モニターでメンバーの位置を確認しながら無線を飛ばすと、布志名と宍道に通信を行う。  ザッザッと、小さく雑音が入ると、出雲が付けているレシーバーから音が聞こえ始める。 「…こちら布志名。今の所、問題はないよ。」 「布志名、了解。聞こえてます。…宍道?」 「…こっちも、大丈夫っす。出雲くん。」 「宍道、了解。…オーライ無線は問題なし。2人共、これから先はオペにも繋いでくれ。ルート変更、指示変更はなし。常に警戒、慎重に進んでくれ。」 「「了解!」」  出雲の指示に了解と答えた2人の声が、出雲のつけているレシーバーに重なって届く。それを聞いた出雲は、その場でヨシと頷くと、自分の武器を再度確認し始める。  そして、確認が終わった大小様々な武器を装着すると、最後に1番信用している武器、左手につけたバイブロハンマーを自分の額に当て目を瞑る。  金属独特の冷やりとした感触が肌に伝わると、出雲は目をゆっくり開き口を開く。 「…今日も、よろしくな。」  そうバイブロハンマーに呟いた出雲は、ゆっくりと腰を上げると、両手を逆手で組むと頭上に上げ、背を伸ばした。 「さーて、行きますか!」  その声を合図に出雲は、A班、B班の後を追うように歩みを始めた。 ーーーーーーーーーrewriteーーーーーーーーー  出雲が動き出してから、約10分がたった。 『29地区付近、旧市街地、歓楽街』  布志名班は旧歓楽街をオペの指示通り歩みを進める。出雲から指名依頼でもしたかのように由里香がオペをするからと念押しに言われていたが、布志名の通信を受け取った相手は別の人であった。  実際オペを選ぶことはなかなか難しい。理由をつけてオペを指名しない限り、その権利は取得できない。実際に由里香はかなり指名が入る名オペレーターで、当たった際は大抵の人は歓喜するような人物である。  そしてこの男、布志名もオペレーター間で非常に人気が高い。堅実な仕事ぶりもそうだが、とにかく顔が際立って良い為、女性のオペレーターの指示はダントツの1番人気である。女性オペは布志名狙いと言われる程に、カリスマ的人気を誇る人物だった。  ちなみに出雲は不人気ランキングがあったら、毎回上位に入るだろう。オペは口を揃えて彼を扱いにくいと連呼する状態だ。正直本気を出せば途轍もなく強く、頼りになると言う事は誰もが認める事実なのだが…。    意味不明な独り言が多い。  言葉の真意が難解すぎてわからない。  脈絡なく、すぐ怒る。  行動が、とにかく無茶苦茶。  4拍子揃ったその態度も、教育係だった師匠が師匠だからしょうがないかと、よく囁かれていた。  このような事がある為、掛かってくる通信に識別コードを入れると、オペが人を選び出すのでそれは出来ない仕様になっていた。  歩みを進める布志名達一行は、交戦予測エリア付近に入るが、未だレーダーには一切反応がなく、ここまでハイブリッドと出会う事も見かける事もなかった。  街並みを確認しながら歩く3人の姿は、オペのモニターから見て、こう言ってはなんだが和やかな雰囲気すら感じ取れる状態だった。  以前は賑やかだったであろう街並みが、そこら中にある看板や照明から推測はできるが、今はどれも明かりはついていない。崩れ果てたその光景を見て、普通の人なら、人がいるとは到底思えないだろう。 「昔は、ここに大勢の人が住んでたんですよね?津和野さん。」  ふと、新入りの八雲が不思議そうな顔で崩れた街並みを見渡しながら、津和野に喋りかけたると、津和野は八雲を見て言葉を返す。 「だな。…20年前、か。…正直な、ここを歩く人混みが、俺は煩わしかったよ。でもな、八雲。今じゃ誰もいないんだからな、寂しくなったもんだよ。…まあ、昔の俺は、知る由もなかったけどな。」  昔の情景、過去の時代を知る40代の津和野がすこし懐かしそうに、崩れ落ちた看板を触りながら辺りを見回す。  思い起こすことがたくさんあるのだろう。ふと壊れたガラスに映るぼやけた自分の顔を見て、感慨深そうに小さく誰にもわからない程度の声で呟く。 「…俺も、歳とったな。」 「津和野さん。僕、初めて隔離地区内に入ったんですけど。…予想以上にボロボロですね。」  八雲は初めて見た防壁内に隠された光景に、少しだけテンションが上がっているのか、興味本位で定まらない視線を散らかすと、言葉を返しながらも、体をソワソワと動かす。 「あ、そうか、そうだったね。八雲君は今日ゲートの中、初めてだったね。」  八雲の言葉を聞いた布志名が、辺りを警戒しながらも、八雲を振り返ると言葉をかけた。 「はい、初めてです。」 「どう、怖さを感じてる?」 「はい。初戦闘ですし、街並みからも、少し不気味さを感じます。」  布志名の問いかけを、八雲が素直に言葉を返すと、津和野は八雲の背中をバンッと音が出る程度の力で叩いた。 「痛ッ。」 「ははっ、八雲。びびんな。今はこんな寂れた瓦礫の街だが、俺らが頑張れば、いつかは人混みだらけの街になるんだからな。」  何度も八雲の背中を叩く津和野を見て、親子のように見える2人に、布志名は優しく微笑むと言葉を返す。 「そうですね。みんなで頑張りましょう。まずは、今日のミッションを無事に遂行します!」 「おう。」 「は、はい。」  布志名の声に2人は即座に言葉を返した。 ーーーーーーーーrewriteーーーーーーーーーー  A班の和やかな会話は続くが、ふと布志名は掲示板に貼っていた地図を思い起こす。そして、腕につけた小さなモニターでも確認すると、ここから先は、出雲が丸印をつけて強調した要注意マークが書かれたエリアに入る事がわかる。  布志名は先を見据えると、オペレーターに再度確認を行う。 「布志名です。ここから先、現場代理人の予測危険地帯に入ります。再度オペの見識、索敵をお願いします。」 「……………。」 「?」  オペレーターとの会話には珍しく、応答に時間がかかる。なにやらバタバタしている音声が伝わってきた後、「わたしや、わたし」と遠くから近づいてくる声と共に、先程までとは違う女性の声が布志名の耳に届く。 「はあ、お久しぶり、はあ、布志名くん。由里香です。」 「由里香ちゃん?!うん?」  息切れしているような由里香の声に、布志名が若干混乱しながらも言葉を返す。 「ほんとーに、ごめんなさい。しゅと君から指名は入っていたけど、別件呼び出しで遅くなりました。ここからは、私が担当します。よろしくー。」  出雲の時とは明らかに違う、声のトーンと口調、相当布志名と喋りたかったのか、よく思われたいのかはわからないが、猫を被ってこそはいるが由里香は嬉しそうに言葉を返す。 「う、うん。よろしく。由里香ちゃんなら心強いよ。…でも、本当に久しぶりだね。」 「はぁーーーん。」 「?」  由里香から漏れた謎の擬音に、布志名は不思議そうに首を傾ける。変な声を漏らした由里香だが、持ち直したかのように、すぐさま言葉を返す。 「しゅと君でないだけで幸せなのに。相手が布志名君とか。…安心感も全然違うし、気苦労もない。むしろ癒される。…今日は幸せだよー。」 「は、ははははっ…。」  由里香の本音のような言葉に、布志名は珍しく乾いた笑いを返した。 「あっ、それより、この前。出雲がやらかしてごめんよ。」 「……………」 「ほんッと、あの馬鹿は。…うぅ、なんであそこで、バイブロなんか、つこたんやろ…。軽く泣きそう。」 「…ごめんね。本当にごめんね。」  若干だが、由里香の間の空いた返答に、布志名は気の毒に思うと、自分のことではないが謝っておいた。  布志名が思うに、間違いなく連帯責任で怒られたであろう由里香を憐れむように言葉を返すと、少しだけ場の悪い顔を見せていた。  布志名は由里香から、出雲への不満、苦情が時折混じる会話を聞きながらも、ルート通りの道を進んでいく。由里香も不満を吐露しながらも、オペ業務には気を抜かない。大量に映るモニターの視認と確認、そして、モニター切り替えの速さ。どれをとっても抜かりはひとつもない。由里香から端的に伝えられるわかりやすい指示に、布志名も安心して身を任せていた。    崩れてはいるが目印となるような高いビルを布志名が通り過ぎた時、由里香から指示が入る。 「ちょっと待って、布志名くん。」  布志名は由里香の声に動きを止めると、A班の2人にもストップと合図を送る。 「…先に飛ばしてたビットから反応あり。200メートル先、商業施設ビル内に多数の反応。…簡易予測だけど、数は20。反応的にクラスは鉄と鋼、なりかけではないと思う。」 「了解。」  布志名はそのオペに静かに言葉を返し頷く。八雲と津和野にも場所を指差しながら、由里香からの情報を伝える。  それを聞いた八雲と津和野は頷き、八雲は武器を利き手に持とうとする。 「八雲。ナイフにしろ。お前だと、飛びは誤射がある。」 「は、はい。」  津和野の指示に八雲は電光ナイフを取り出すと、利き手で握り込んだ。 「気負うなよ。今日は基本、見でいいからな。」 「は、はい。」  津和野は八雲を心配してか声をかけると、布志名も津和野の言葉に頷き、八雲に話しかけた。 「きつい言い方だけど、八雲君は慣れていない。フォローと指示はするけど、八雲君の動きが、仲間を危険に晒す事にもなるからね。」 「は、はい。」  布志名の注意に言葉を返した八雲は、更に身を引き締めると、津和野の周りで警戒態勢をとった。津和野はそれを確認すると、自身も武器を身構えるのだった。  A班は、いつでも戦闘できるよう身構え、由里香の指示に従い商業施設内を布志名を先頭に入っていく。  外とは違う、どこかひんやりした空気と共に、錆びた鉄の匂いのような腐食臭が辺りに漂う。慣れている布志名と津和野は、刺激臭に顔を曇らせた八雲とは違い、集中力を途切れさせない。視覚を常に広げ、足元に散らばる腐った食料品や瓦礫さえも見落とさず、足音すら立てない2人の動きに、八雲は感服していた。 「待って、その先にいる。…反応、約10。」  布志名は由里香からの指示を受け、皆にハンドサインで合図を送ると、皆が身構えるように柱に身を隠す。  それを確認すると、布志名は壁の向こうを肩を体の内に入れるようにして覗きこんだ。 「…視認でも、10。…確かに多いね。」  布志名は小さな声で由里香に伝えると、ハイブリッドの動向を確認する。  今はこちらに気づいてはいないが、敵が固まっている今の状態では、一斉に襲ってきた際に八雲に負担も大きくなる。  場を見据えた布志名は由里香に告げる。 「由里香ちゃん。数も多いし、こちらには場慣れしていない子もいる。俺のも見せておきたいし、を使うよ。」 「了解。布志名くん、ライセンスの読み込みをお願い。」  由里香から返ってきた言葉に布志名は頷くと、一枚のカードを取り出し、腕につけているモニターに素早くかざした。 『クラスA。布志名(ふしな) (しおり)。ライセンスカードの読込完了しました。固有資格確認。個体専用特殊兵器(エレクトリカ)の申請許可開始。』  布志名のレシーバーに自動音声が流れると、すぐさま由里香から返答が返ってくる。 「西尾 由里香。エレクトリカの使用申請承認します。」 「了解!」  由里香からエレクトリカの使用許可が下り、布志名が言葉を返す。  許可が下りると同時に、布志名は両腕につけていた機械式のリストバンドのような物のスイッチを指で押し込み起動させる。  徐々に緑色に点灯していくランプサインとメーターのような出力表示が可動ラインを超えると、リストバンドは機器特有の動作音を静かに立て始めたと同時に、布志名の周りにバチッ、バチっと細かく音を立て、放電するような青い光が走り始める。そして、布志名の両腕を起点に一気に電気の渦が圧縮されると、一際大きくバチバチと瞬時に煌めいた。 「久しぶりに見れるなー。」 「な、何ですか?!あれは?」  放電する布志名を見ながら呟いた津和野の一言に、八雲が驚きながら聞き返す。津和野はそんな八雲に、笑みを見せ言葉を返した。 「よーく、見とけよ八雲。あれが、だ。布志名君の兵器の名は…」 「久しぶりに見れんな、布志名君のエレクトリカ。通称…」 「「。」」  由里香と津和野の声が重なるように、布志名のエレクトリカの名を呼ぶと、布志名は静かに八雲を振り返る。 「見ておいてね、八雲君。20年前に結びついたのは、鉄と人間だけではないんだ。今から、俺がエレクトリカの真髄を見せるね。」  布志名は八雲に優しく微笑みながら、そう伝えると、ハイブリッドに向かい歩みを進める。  ハイブリッドの方を向く布志名の顔は、いつもの穏やかな顔とは違い、真剣な面持ちで、これから戦いが始まる事を静かに告げていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加