Lightning Vortex

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Lightning Vortex

「エレクトリカの真髄、今から見せるからね。」  布志名は、そう八雲に告げると、ハイブリッドの方へ歩みを進めて行く。  布志名が纏う渦巻くような電撃も、それに呼応するように、バチバチと音を立てては威嚇するような光と音を周囲に撒き散らす。  布志名の個体専用特殊兵器(エレクトリカ)。 『ライトニングボルテックス』  エレクトリカと言われる人間は、固有資格と言われる物を有す事で、それにあった専用特殊兵器を扱うことができるようになる。  ハイブリッドは人間と鉄が結びついたような存在だが、20年前に結びついたのは鉄だけではなかった。布志名のように強力に電気と結びついたバイオエレクトリシティなども生み出す事になる。  それが、通称エレクトリカと呼ばれる存在だ。  布志名の体には常人にはない電気回路が形成されている。そして、強力な静電気を発生、および帯電させ、手につけている通称バンド型アンプで更に増幅制御することで対象に向けて放電を可能にする。凄く簡単にいえば布志名は、小型の雷を発生させ、それを放電制御する、装置と能力を持っている。  エレクトリカもハイブリッドと同じようクラス分けされているが、布志名はAクラス。ランクでも表されるよう、対ハイブリッド戦では、かなりの強さを発揮する。  一見ハイブリッドが導電体、いわゆる電気を通しやすい身体ということで、電流は大地に流れてしまい威力が分散しそうなものだが、渦を巻いて圧縮された雷は空気を爆音と共に切り裂き、その大電流で一瞬のうちに爆発的な熱量をもって敵を溶解させる程である。 「あの塊は、俺が一気に片付けます。津和野さんは、八雲君をフォローしつつ、離れた所に見えるハイブリッドをお願いします。」 「了解。八雲、俺の後ろにつけ。」 「はい。」 「まずは俺が飛び込みます。フォロー頼みます。」 「了解。」  布志名の指示に津和野が言葉を返すと同時に、布志名は壁から姿を表し、渦巻く小型の雷を一際大きく光らせ、音を響かせた。  その音と光に反応して、布志名に気づいたハイブリッド数体は、唸り声を上げると布志名に引き寄せられるように向かってくる。 「貫け。」  布志名の短い呟きに呼応するよう、雷の渦はハイブリッドに向かい、曲がるような複雑なルートを作ると、鳴り響いた爆音と共に、瞬く間にハイブリッド1体を貫く。しかし、圧巻するのはこれからで、1体目に当たったその雷は、引き寄せられるように方向を変えると、近くにいる2体目、3体目と連鎖するように暴れ狂い続ける。  雷に貫かれたハイブリッドは体が震えるように感電したかと思うと動きを止め、その雷が作り出す高温と衝撃によって身体が溶かされて、1体、また1体と徐々に倒れていく。  時折火花のようにバチバチと青白い閃光が敵を威嚇しては、着弾点で爆発が起こるのを繰り返し、見る見るうちに敵の数が減っていく光景に、八雲は呆れたように口を開け、目を見開くしかなかった。 「す、凄ッ。」 「ボケっとすんな、八雲!」 「は、はい。」  津和野から注意が入るが八雲が尊敬や羨望の眼差しで、布志名は凝視するのは仕方のないように思える。  奥から出てきたハイブリッドを合わして10体以上はいたであろう惨状だったが、布志名が津和野に指示を出した離れている個体を残し、ハイブリッドは瞬く間に動かなくなって床に倒れ込むように動きを止める。  ハイブリッドも反撃を試みるが、布志名の周りを渦巻く雷は、それを許さない。瞬時に何本もの雷の道を作りだしては、瞬く間に青白い閃光が敵を貫いていく。 「やっぱ、すげーな、エレクトリカは。…まあ、こっちは楽でいいけど。よっと!」  津和野も布志名の強さを誉め称えながらも、布志名から指示のあった残りのハイブリッドを危なげなく倒していく。  さすがベテランと言わざる終えない動きで、布志名が作り出す雷撃の挙動の邪魔にならないよう足を運びながらも、八雲に気を配り、自分が倒すべき相手を的確に選んでいた。 「八雲!フォローするから、右の一体とどめを刺せ!」 「は、はい。」  津和野がギリギリまで傷を負わしたハイブリッドに、八雲にとどめを刺せと指示を送る。八雲は微震しながらも、電光ナイフを強く握り込むとハイブリッドに刃を向けようと体に力を込めた。  だが、その刹那。  布志名が作り出す雷の渦が八雲が狙いをつけていた最後の一体を貫くと、八雲の目前に迫ったハイブリッドは、前のめりに倒れ込み動きを止めた。 「えっ?…終わり?」  気合を入れた八雲だったが、自分の指示された敵が倒れると、キョトンとその場に立ち尽くし、気の抜けたような微妙な表情で言葉を呟やいた。その後も、落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回すと、2人に確認するように顔を合わした。 「ごめんね、八雲君。狙えたから、先に仕掛けたよ。」 「あー、いい、いい、布志名くん。やれるならやってもらった方が良いから。…八雲!突っ立ってないで、こっち来い。」 「は、はい。」  八雲に両手を合わし謝る布志名に、津和野は片手を横に振ると、構わないと言葉を返す。八雲は初戦闘の興奮故か、手に握るナイフを未だに強く握り込んでいた。 「みなさん、再度、最終確認をお願いします。」 「了解。八雲、残りがいないか、お前も辺りを見回せ。」 「はい。」  布志名の指示に従い、皆が辺りを見回す。3人で細かく目を配るが、ハイブリッドの姿も、気配も感じ取れなかった。 「由里香ちゃん。」 「うん。…こちらも、レーダー、反応なし。モニター、反応なし。戦闘解除して大丈夫です。」 「了解。」  その言葉を聞き、布志名は、ようやく待機状態のように、細かく光らせていたライトニングボルテックスを解除すると、渦巻いていた雷は瞬時に消え去る。  残った物は動きを止めたハイブリッドと、散らばるように散開したその破片。溶解した鉄の塊が、燻すような匂いを発し、静かに煙を上げていた。 「さすが、布志名くん。危なさを微塵も感じさせず、周りも壊さない。パーフェクト対応だよ。」 「みんながいたからね。でも、褒めてもらえて嬉しいよ。」  由里香が布志名を褒め称えると、布志名は優しい口調で由里香に感謝を伝える。 「ううん、こちらこそ。…はー。でも、あのどっかの独り言が多い人も、布志名くんを見習って欲しいよ。…はぁ。」 「…は、は、はは。」  布志名を褒めた後に由里香は名前こそ言わなかったが、出雲であろう人物に不満を吐き出す。それを聞いた布志名は苦笑いで言葉を返す事しか思いつかなかった。 「あのー、津和野さん。出雲さんもエレクトリカなんですよね?」  由里香と話す布志名を見ながら、八雲が不意に津和野に尋ねると、一呼吸フーと大きく息を吐いた津和野は、難しそうな顔で言葉を返す。 「八雲、布志名君も凄かっただろ。…だけどな、あいつのは、もはや次元が違う。反則の領域だ。」 「えっ?」  津和野の真剣な声に、八雲の口から聞き返すような単音だけが溢れる。 「見れる機会があればだが。…今のお前じゃ、目ん玉が飛び出るぞ。」 「…そ、そんなに凄いんですか?」  津和野の驚かせるような言葉に、言葉を詰まらせながらも八雲は聞き返すと、津和野はまた一息間を空けると八雲に言葉を返す。 「本気で街が粉々になるからな。…本気だからな。」 「…へ、へー。」  その言葉に若干怯える八雲の肩を、津和野はポンポンと叩いた後に、布志名の方へ歩き出した。   「由里香ちゃん。A班は、引き続きルートに沿って27区まで向かうよ。」 「了解。布志名くん、気をつけてね。」 「うん。…津和野さん、行きましょうか。」 「あいよ。…行くぞ、八雲。」 「は、はい。」  布志名達A班は辺りを再度見回した後、ハイブリッドのいなくなったビルを後にすると、27区へ向かい再び歩み始めた。
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