Mottled Human

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「宍道!!なりかけは?!」    出雲の一際大きな声が、ボロボロの街並みに反響するように響きわたる。  その声の方向に宍道が振り返ると、出雲が息を切らしながらも、こちらに全力で走ってきていた。そして、宍道の目の前で止まると、両膝に両手を当て屈み、ゼイゼイ言う荒い息を整える。  額からは大粒の汗が、滲み出るように吹き出すと、地面にポタっと落ちる。 「ごめん、出雲君。急いで来てもらって。」  宍道が出雲に軽く頭を下げ謝る。 「んはッ。…良いから、はあ、状況を。」  息を整えながら、出雲は宍道に問いかける。 「うん。場所はここ、26地区の旧市街地付近。対象女の子、推測年齢10代前半。」 「…子供かよ!!何で、見失った?!」  若干怒気を帯びたような出雲の声に、宍道は再び頭を深く下げると、会話を返した。 「すんません、俺のミスです!ハイブリッド対応に手こずり、人員さくのが遅れました。」 「くっそ!間がわりーな!…レーダーは?!」 「もちろん。ロックしたんですけど…。」  宍道は、申し訳無さそうとも、悔しそうとも取れる表情で出雲に伝えると、下唇を噛み締める。 「…けど?」 「…オペ班が言うには、地下かもって…。レーダーが効かないらしいです。」 「くっそ!地下かよ!…あーー!クソが。」  出雲が苛立ちをぶつけるように、大声で叫ぶと、困惑の表情を一瞬浮かべるが、直ぐに気持ちを切り替えると、地下に潜れる場所は無いか、腕につけたモニターを見ながら辺りを見回す。 「オペは?ナンバーも!」 「熊さん!2428。由里香ちゃんも、索対で応援に入ってる。」  出雲は宍道から聞いた識別コードをスマホで打つと、オペレーターと連絡を取り、メットにつけたレシーバーを片手で抑えた。 「わかった。………あっ、熊本さん?!出雲です。オペ班の状況は?」  出雲が通信を行うと、直ぐに男性の声で応答が返ってくる。 「出雲君か!…レーダー反応なし、空撮、定点では、確認出来てない。由里香にプレイバックビューで再確認してもらってる。」 「了解!随時情報更新と、連絡を。」 「わかった。任せてくれ。」  出雲と熊本の短い会話が終わると、出雲は腕につけたモニターをいじり、表示された地図を拡大すると、地下内部の状態にアクセスした。映し出されたエリア詳細図を見る限り、以前は地下に旧地下鉄が走っており、地下道は南北に大きく伸びていた。  出雲はそれを睨むように見つめ、宍道に声をかける。 「宍道!B班は、30分周辺の地上部分を散策しろ!3人がカバーできる範囲で分散。いいな?」 「了解。…出雲君は?」  出雲の指示に、宍道が声を上げ頷くと、出雲に問いかける。その問いかけに、少し間を空けると出雲は言葉を返す。 「…潜る。」 「はぁ?!一人で地下に潜るつもり?!…さすがに、それは俺も止めるよ!ハイブリ残存エリアだよ!布志名さんに、サポートしてもらった方がいいよ!!」  出雲の返答に宍道は顔を強張らせると、少し大きめの声を出し、心配するように声をかけた。  実際、ハイブリッド残存エリア内での地下探索は、レーダーも効かず、明かりもない為、危険度がかなり増す。   オペフォローも基本できない為、ツーマンセルは基本中の基本であり、宍道の言っていることは概ね正しいのだが、出雲は宍道の意見に、首を横に振り、話を続ける。 「大丈夫。『リンカー』使って、ビット捜索するだけだから。3機飛ばせば、充分だろ。俺が潜るわけじゃねーよ。」  出雲は自信のある表情で、宍道に言葉を伝えた後に笑顔を見せると、自身の持つバックをゴソゴソと探り出す。 「だけど!見つけたら、潜らなきゃ行けなくなるでしょ!」  出雲の強さは認めている宍道だが、やはり、どれだけ説得されても心配らしく、引き下がらず強めに言葉を返した。  そんな宍道に、出雲はバックを漁る手を止めると、振り向いたと同時に、右目を閉じ、顔の角度を決めると言葉を放った。 「なめるなよ、宍道。俺には、がある。」 「そう、だけど…布志名さんに、来てもらった方がいいって…。」  穴道の心配をよそに、出雲は自信のある表情を崩さない。そして、すぐに熊本と通信を始めると、自身の持つライセンスカードを、携帯スキャナーで読み込んだのだった。 『クラスUD。出雲(しゅっと) (はかな)。疑似ライセンスカードの読込完了しました。固有資格確認。…登録リストにある個体専用特殊兵器(エレクトリカ)の申請許可開始。』  機械音声がライセンス情報を伝えると、出雲は直ぐに熊本に話しかけた。 「熊さん。地下探索にビット使います。固有資格のひとつ、『リンカー』使用。ライセンス通してます。」 「は、早、了解。…熊本 繁晴、エレクトリカ、承認します。」 「さっすが、熊さん。即対応。」  会話が終わると出雲は、バッグから既に取り出していたタバコケース大の丸型で頭にプロペラがついた物体を地面に並べる。  そして、その物体と会話するよう語りかけながら、3機のプロペラに視線を向け集中すると、稼働ランプが緑色に点灯し、その物体は出雲の周りをプロペラを回しながら空中で旋回し始めた。 「うし、感度良好。映像、ホログラム表示っ、と。」  出雲の腕につけているモニターから映像が空中に映し出されると、3画面に分かれたモニター画面が映し出される。 「よしッ!」 「問題無さそうだね。だけど、なるべく無理はしないで!こちらもやれる事はやるから!必ずオペレーターモードにしておいてよ!」 「うっすー。了解!」  熊本からの指示に了解と応えると、出雲は地下に潜れそうなボロボロになった地下鉄の階段の入口から、3機のビットを飛ばして探索を開始した。意思を持ったように器用に動くそのビットは、徐々に地下に潜ると、縦横無尽に駆け巡っていた。 ーーーーーーーーーRe:writeーーーーーーーーー 『リンカー』とは。  リモコン、コントローラー、所謂、遠隔操作機器から信号を送信しなくても、脳から発生する磁界電波により、アクセス権限のあるものを触れずに直接ダイレクト操作可能にする、固有資格の一つである。  実際、この資格を使うエレクトリカは多い。それを専門にするエレクトリカも居る程で、事実オペに頼らない索敵、探索、警戒及びビットを通じての攻撃まで可能とするこの力は、結構重宝されている。 ーーーーーーーーーRe:writeーーーーーーーーー  ビットを3機が捉えた映像を頼りに、空中に映し出されたホログラムを注意深く観察する出雲だったが、案の定地下は荒れ放題で、道もほとんど塞がり、照明のない地下道は満足いく成果をなかなかあげられない。ビットについたLEDライトを頼りに、地下を照らしながらの捜索も、なりかけの少女を見つけるには至らなかった。 「ここにも、いないか…クソー!次ぃ!!」  出雲は地上から人が入れそうな地下穴を見つけては、ビットを飛ばし、地下に潜らせ、道が途切れれば、またビットを地上に戻す。そういう作業を繰り返していた。  出雲はそれでも、貯まる疲労と蓄積される焦りに周りが見えなくならないよう、宍道からの通信、熊本からのオペにも適宜、的確な声を返していた。 「宍道!そっちは?!」 「だめ!まだ、見つかんない。痕跡もなし。」  宍道の焦るような声が耳に届くが、出雲は次の指示を、すぐに組み立てると声に出す。 「…あーー、あれ!自動識別ついた地中レーダー…。あー、そう、セレンディッパー!」 「あー!!セレンちゃんかー!あるよ。すぐ用意します。…甲斐ちゃん、セレン出して!!」  出雲の指示を聞いた宍道は、すぐさま仲間に声をかけると、急いで機器の準備に取り掛かった。 「頼んだ!」  宍道へ短く声を返した出雲に、今度は熊本から若干焦ったかのような声で通信が入る。 「出雲くん。50メートル範囲内に、突如大型ハイブリッド反応。数は1。」 「間が(わり)ぃなー。…宍道…は無理か。俺がやります!」  突然のハイブリッドの出現に、出雲はいら立ちを隠せずに叫ぶ。被っているヘルメットを地面に叩きつけそうになる気持ちを抑え、自ら対応することを即座に宣言した。 「ごめん、忙しいのに。」 「いや、大丈夫!任して、熊さん。」 「ありがとう。…予測クラスは、鋼だよ。…レーダー反応からして、まだ地下…だと思う。…場所は、そこからーーー。7時の方向、距離30。モニターに…今、印つけた。」 「了解!」  熊本からのオペに出雲は頷き応えると、ハイブリッドのいる方角を振り向き、鋭さを増す目と、荒ぶる心を抑えるように、大きく息を吸い込むのであった。  
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