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Down The Hole Hammer & Vibration
出雲は大型のハイブリッド出現の連絡をオペの熊本から受けると、自ら対応することを伝えたのだった。
腕につけた小型モニターのホログラム表示を切り替えると、熊本が付けた出現予測地点の印を頼りに、その方向に視線を向ける。
「まだ、出てこねーか。」
未だ姿を表わさないハイブリッドの位置を見つめ呟くと、少し距離を取った所で地面にしゃがみこみ、徐に背負ったバックを掛け声と共に地面に降ろす。
「どっせい!!…熊さん!反応あったら教えて。」
「了解。」
そういうと出雲はバッグから、大型の筒状の物を取り出すと、右腕につけていた機械の骨組みに嵌め込むように組み込んだ。そして、細かくカチッと溝と溝が嵌まるような音がした後、ラチェット機構付きの工具を使いボルトを締めたり、付随するアタッチメントを装着していく。
徐々に組み上がっていく長い筒状の物は、先端にゴツゴツした荒い突起がいくつも浮かび、その超硬ビットと呼ばれる円形の機構は、出雲がスイッチを握る度に、緩やかに回転しながら、打撃にも似たピストン運動を繰り返した。
「ヨシ!…しっかし、久々だな。こいつ使うの。」
出雲は呟くと暖機運転が終わったかのように、武器についているダイヤル状の出力メモリを、顎で器用に回し、最大値まで調整する。そして、準備が整ったと言わんばかりに立ち上がると、その武器を横に向け振りかざした。
「はっや!…組立、もう終わったの?!」
「超速組立は、基本故。」
熊本の驚いた声に、出雲は意地悪そうな笑顔を作ると、片目をつむり、得意げに豪語する。
「…やっぱ、木田さん仕込みは、凄いね…。」
熊本の半ば呆れたような言葉に、出雲は一瞬昔を思い出すように目を閉じるが、直ぐに満面の笑みで言葉を返した。
「遅いと、ぶん殴られるからね。『お前がな!出来ねー、やれねーと言い訳している内にも人は死ぬ!!一体、何人殺す気だァ!!』………とか、普通に言われるからね。」
「…は、はは、は。…ごめん、寒気がした。」
出雲の木田と言う人物を真似て言ったセリフに、熊本は全身から血の気が引くような感覚に襲われたのだった。熊本がオペ室から返した、その苦笑いも、本音も、木田と言う、とんでもない人物を表すには十分すぎる程だった。
「まあ、こえーし、パワハラおじさんだけど。俺の師匠故。尊敬はしてるよ。」
「…そうだね。…伝説だもんね。…君の師匠、木田 流水さんは。」
出雲も、熊本も、思いを馳せる人物は同じで、その名前を口ずさんだ熊本は、どこか懐かしそうに物語ると、出雲は、また屈託のない笑みで微笑むのだった。
「…さてさて、そろそろかな。」
出雲は会話しながらも、チラチラ見つめていた地点に、視線を固定する。
「そうだね。反応は相変わらず、まちまちだけど、出現地点に狂いはないと思う。」
「うっし、お出迎えしてやるか。」
そう言った出雲は、意気揚々と、右手につけた筒状の武器、ダウンザホールを担ぐように肩に乗せると、ハイブリッドの出現地点に向け歩き出した。
「しかし、大きいねー。ダウンザは…もはや、旧時代の遺物だよ。」
「はっはー、古いもの好きな故。」
大きな大砲のような筒を肩に乗せる出雲だが、その動きからは、微塵も重さを感じさせない。一歩一歩進む足取りも力強く、熊本との会話にも余裕の笑みを見せ続ける。
「正直、出雲君の事だから、あれ使いそうで、ハラハラしてたんだけど。…最悪、『Rods』撃つから、とか急に言いそうだし…。」
熊本は少し心配そうに尋ねると、出雲は笑いながら、右手につけたダウンザホールを空中でブンブン否定するように振り続ける。
「使わない。使わない。…あんなん、ここで撃ったら、それこそ由里ちゃんとデートしてもらえ無くなるし。」
「はは、そっか。」
出雲の返答に、熊本は安心したように笑い声を返した。
「それに…。」
「…それに?」
短く呟いた出雲に、熊本は聴き返す。
出雲は回答に少しの間を空けた後、真剣な眼差しで、言葉を吐き出した。
「人がいる場所で、あれは撃たない!!固有資格に頼りすぎんのも、好きじゃねーし!」
「そうだね…。その通りだよ。」
出雲の意志が籠もった大きな声に、熊本は静かに肯定するようその場で頷くと、小さく言葉を返したのだった。
その時だった。
破壊音と共に現れたのは、光を求め地下から這い出た魔物のような、禍々しい姿の一部だった。その奇妙な腕を地表に現すと、地面を叩くようにして身体を持ち上げようとする。
「熊さん…来たみたいだぜー!」
「うん。反応からして、クラスは鋼で間違いない。…出雲君、任せたよ!」
「了解!!」
一際大きな出雲の声が、あたりに響いたのを合図に、出雲はハイブリッドに向かって走りだした。
見た目通りの重装備、そして、ボロボロの隆起した地面にも関わらず、出雲はそれを感じさせない位に、機敏に動く。地面に開いた穴をかわすようにジャンプし、最短の距離を進む姿は正に可憐と呼ぶに相応しく、ハイブリッドとの距離をどんどん詰めていく。
「出雲君!来るよ。」
「オッケー、熊さん!ぶちかますよ!!」
ようやく地面からすべての姿を見せたハイブリッドは、直ぐに出雲の気配に気がつくと、赤くギラつく複数の目を瞬時に出雲に向けたのだった。
肩や背中から不規則に生えた、大きさも長さもバラバラの腕が5本。体のあちこちには、顔のような突起があり、複数の目のようなものが、明確な殺意を持ち対象を睨みつける。酷くバランスの悪いその造形も、人を恐怖させるのには十分過ぎるほどで、ゆっくりと開いた大きな口は、戦闘開始の合図のように、大きな雄叫びを上げたのだった。
「「「ギィアアアアアア!!」」」
「でけえ声だな。…俺と勝負するかー?…すー…。」
ハイブリッドが放った、その凶悪な叫びにも、出雲は一切怯むことなく、余裕の発言をすると、走りながら大きく息を吸い込んだ。
「ああああアアアァッ!!!!」
「いっ!!」
出雲の怒号のような叫びが響き渡ると、熊本の反射的に漏れた悲鳴にも似た声が返ってくる。
「…どうだ?まいったか?俺も声…」
「まいったか?…じゃあらへんわァ!!お前、ほんまうっさいねん!!鼓膜破れたかと思うたわッ!!」
出雲は得意げな顔で呟くが、その言葉を止めるように、由里香から本気で叱咤する声が返ってきた。
「…あれ?なんで由里ちゃん?…熊さんは?」
出雲の小さく聞き返した、とぼけたようなセリフに、由里香の額に血管が浮かび上がったのは言うまでもなかった。
「お前のぉ、せいでぇ、…悶絶してはるわッ!!!!」
由里香のキンキンと甲高くなった声が、レシーバーを通して伝わると、出雲は多少顔をしかめると悪態をつくように言葉を返す。
「あー、クソでっけー声だなー。120デシベルぐらい…」
「いちいち、うっさいねんッ!!黙れよぉ!!」
「はい。………あー由里香は、顔は可愛いのに、嫁の貰い手いねーわ。多分行き遅れるな。…貰ってやろうかなー?…いやー無理だな。尻どころか、足蹴にされそうだし。最悪、千枚通しとかで金玉刺されそうだしなー。」
出雲の悪態を最後まで言わさない当たり、流石、由里香と言わざる負えない。出雲も、その怒鳴る由里香の声に、即座に肯定するよう返答したが、その後レシーバーが拾わないような小声で、ずっと独り言を囁いていた。
うまい具合に囁く出雲の声は、由里香の耳にもボソボソとしか聞こえず、何を言っているのかわからなかったが、聞こえなくても察していたかのように、ワナワナと怒りに震える体を抑え込むと、由里香は言葉を返すのだった。
「…小声でよく聞こえへんかったけどな…、お前がブツブツ文句言っとんのはわかんねん!覚えとけよ!!」
「さ~て、何の、事だか、わかりませーん!…それより、時間だ!!オペ対よろしくー!」
「くっそ…距離10。付近に他の反応なし。一体単独や。即、いてまえ!」
「了解!」
そう言葉を返した後、出雲は今までが嘘だったかのような顔つきになると、瞬時に闘いが始まる事を自身の全身に伝える。切り替えの速さは相当なもので、正直眼を見張ることしかできない。より、低くした前傾姿勢も、右腕に込める力も、一歩地面を蹴り進む脚の動きも、オペ班も流石と認めざる負えなかった。
遠目でもわかっていたが、近づくとよりハイブリッドの身体の大きさが、格段に違うことも改めて痛感できる。自分の身長の2倍はあるようなその巨体は、重量故か地響きにも似た足音を鳴らすと、出雲に自身に生えた歪な腕をすべて向け臨戦態勢になると、襲いかかってきた。
「でっけッ。喰い過ぎだ、お宅は。」
「出雲くん!オペ判断で、布志名くんに救援要請をかけた。」
「あっ!熊さん。…了解!ま、来る前に片付きますけどッ、ねッ!!」
ハイブリッドの攻撃圏に飛び込んだ出雲は、会話の途中に繰り出された、敵の2本の腕から繰り出された攻撃を、地面スレスレまで体を落とし回避するが、ハイブリッドも残る3本の腕を別の角度から地面に叩きつけるように出雲に振り下ろす。
「出雲君!!」
「予測済み!!」
出雲は今度は体を横に捻りながら軽く助走をつけ地面を蹴ると、空中で体を横に寝かし、2回転するとその攻撃を全て回避する。重装備をものともせず、むしろその反動を使ったような、ダブルコークスクリューのような動きにオペ班も口を開けて目を見開くしか出来なかった。
「すっごッ!」
「…ありえへん。…あの動きは。」
オペが驚愕する中も、出雲の動きは俊敏さを増し続ける。バランスの悪さ故か、攻撃後に隙のできた敵に対し、右腕につけたダウンザホールハンマーを、ハイブリッドの懐に押し付けるように密着させた。
「ダウンザ!アクティブ!!」
出雲の掛け声と共に溝のついた筒が回転し、先端の超硬ビットが、回転しながらも、ロット先端のパーカッションハンマーに圧縮空気を送り出すと、細かなピストン運動を繰り返す。
その刃は岩を削り潰す削岩機の如くスクリュー穿孔を繰り返し、辺りに火花を撒き散らせると、ハイブリッドの硬い表皮を抉るように砕き、内部まで食い込んでいく。
「どっせいッ!」
最後に入れた気合の言葉と共に、圧縮空気がプシューと音を立て砕けた表皮を吹き飛ばすと、力の限り押し込んだダウンザホールは、ハイブリッドの体を円形にくり抜き貫いた。
「!!?」
「削孔完了!!」
「ギィアアァァアアァァ!!」
ハイブリッドは、その懐を貫いた筒を確認するように複数の目を向けた後に、痛みから出た悲鳴のような、狂った叫びを上げ、出雲に掴みかかろうと腕を伸ばす。
「おせー、ッよ!!」
だが、言葉と同時に出雲はダウンザホールを強制パージし腕を引き抜くと、地面、ハイブリッドの懐と順に蹴り上げ、最後に半円を描くよう胸を斜めに蹴り上げると、回転する力を使い、フォーリアの様に斜め後ろに宙返りし攻撃を回避すると間合いを取った。
「ひゃっほー!」
「………。」「………。」
出雲は楽しそうな声を上げ動き回るが、オペの二人はその動きに、もはや絶句するしかできなかった。
尚も攻撃の手を緩めない出雲は地面に着地した瞬間、再び両脚に力を込めハイブリッドに向かい高く跳躍すると、左手に仕込んだ武器バイブロハンマーを、相手の頭上から斜め下に向け構える。そして、空中でビタッと機械仕掛けの腕がハイブリッドの体に触れた瞬間、一際大きなプシュッーという音を響かせた。
「アクティブ!!」
バイブロハンマー起動の掛声と共に凄まじい衝撃波を左手が放つと、ハイブリッドは斜め後ろに向かい吹き飛ばされ地面に仰向けに叩きつけられた。
ハイブリッドの身体は、その衝撃故か地面で何度かバウンドするように体を揺らすと、叩きつけられた衝撃で体を貫かれた穴にビキッという亀裂音と共にヒビが走り始める。
地面に仰向けに倒れたハイブリッドが足掻くよう唸りをあげようとした瞬間、ハイブリッドの複数の目が捉えたのは空中で太陽の光を背に自身の姿を輝かせながら飛び込んでくる出雲の姿だった。
その目は一点を見つめる獲物を狩る狩人の目。
力をためているかのように振りかぶった、その巨大な機械の腕は太陽の光に反射し煌めくと、空から一気にハイブリッドに向かい振り下ろされた。
「これで、終いだああああァァァ!!アクティブ!!!!」
その一撃は止めと呼ぶにふさわしく、掛け声と共に放たれたバイブロハンマーの凄まじい衝撃波により、ハイブリッドの身体はくの字にへし折れ、地面は爆発でも起きたかのように陥没すると砂塵を巻き上がらせる。
頑強なハイブリッドの身体だが、この衝撃には耐えられず亀裂の入った身体は更に軋むと、破裂するようにバラバラに飛び散る。そして、細かく舞い上がった破片は太陽の光に反射しキラキラと煌めくと、衝撃のノックバックで少し跳ね上がった出雲の体の周りを花弁のように舞い散っていた。
「…っと。討伐完了。」
綺麗に着地した出雲は呟いた後に、ふいに後ろを振り返るとハイブリッドが砕けた場所に少しだけ目を閉じ両手を揃えると、軽く頭を下げた。
「…こ、言葉が出ないよ。…何、あの動き?」
未だに先程見せた出雲の動きが信じられない熊本は、呆れたように言葉をかける。そんな、熊本に出雲は笑いかけながら答えるのだった。
「ししっ、強いて言えば…野生解放!!かな。」
「野生、解放?…何それ?」
「まあ、バイブロ使いは、獣故。」
左目を瞑るいつものポーズで答えた出雲は、左手につけたバイブロハンマーを、空に向けながらガチャガチャと握る。
「はは、は…獣か…。あの動き見たら納得だよ…。」
「由里ちゃん、見てた?カッコよかっただろ?デートの申出いつでも受けるぜ!」
由里香に向け、上機嫌で出雲が尋ねると、真面目なトーンで即座に返答が帰ってくる。
「お断りや。敵おらんなら、はよ行けよ。」
「クソ塩対応だな。」
オペレーターとの会話が終わると、出雲はすぐさまビット3機を起動させる。一刻でも早く、なりかけの少女を助けるために、薄暗い地下への探索を再開した。
「待ってろ!すぐ、見つけてやるから。…俺は、エレクトリカだから!」
自分に言い聞かせるよう呟いた言葉を胸に、出雲は少女の探索を
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