Renegades

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Renegades

出雲は大型ハイブリッド討伐後、すぐさま『なりかけ』の少女の捜索を行うべく、薄暗い地下に遠隔ビットを飛ばしては、モニターに映る映像を凝視していた。 「クッソ。…ここにも、いねーか。」  出雲が地下を捜索しても、宍道達が地上を捜索しても、手がかりは出てこない。オペレーター達もレーダー機器をフル稼働しての捜索だが、皆に焦りだけが蓄積される結果を生んでいた。  だが、転機は突然訪れる。  レーダー探索をしていた、オペの熊本が微かな反応に気づき、出雲に通信が入れる。 「…いた!!きたよ、出雲君!反応ありだ。」  出雲はその声に、地下に飛ばしたビットの遠隔操作を即座に切ると、熊本に聴き返す。 「熊さん!位置は?!」 「南西!今、印つける!そこからだと、建物で見えないと思うけど、その先だよ。」 「了解!」  出雲は熊本の言葉に声を返すと、右手につけていたダウンザホールハンマーの骨組みを、その場に投げ捨てる。そして、少し身軽になった身体で、言われた方向に向けて走り出した。 「宍道!通信、聞こえたな?!」 「聞こえてる!今から向かうから。」 「頼んだ!…布志名!」 「…こちらも向かってる。ただ、距離が遠い。」 「了解!なるはやで頼む。」  出雲は皆に確認するように連絡を取りながらも、崩れた街の中を駆けていく。走りながら思い起こすのは、自分の中での英雄(ヒーロー)、偉大なあの人の影で、その背中を追うように閃光のように走り抜ける。 (倒すだけがエレクトリカじゃねー!人を助けたいから、俺はこの職についたんだ!あの人みたいになりたくて!!)  心で呟くその声は、強く自分に言い聞かせるようにも、自身に戒めるようにも響く。駆け抜けるその姿は、その消えない想いに向け、懸命に努力する出雲の姿のようでもあった。 「対象まで、距離100。今は、地上に出てる。出雲君が、1番近い。」 「了解!この建物の向こうか!」  ようやく見えた光明に出雲はオペの熊本に言葉を返すと、遮蔽物の前で急ブレーキをかけたように止まる。そして、建物の影に姿を隠すと、そっと向こうを慎重に覗き込んだ。  その出雲の視界に捉えたものは、もぞもぞと動く人影だった。挙動不審なその影は、何かに怯えるようにキョロキョロと辺りを見渡しては、誰にも会いたくないと言わんばかりに、姿を岩陰や瓦礫などに隠していた。 「…はぁ、見つけた。」 「うん。識別反応からも間違いない。…『なりかけ』だよ。」 「…ですね。露出してる部分が鉄化してる。」  出雲は熊本の声に即座に返答すると、対象の少女を確認する。汚れて、多少穴の空いた服に、露出した皮膚に見える切創と斑についた銀色の皮膚、ボサボサにはなっていないが洗髪できていないであろう油分の浮いた髪の毛。そして、ひと目で分かるあどけなさの抜けない顔つき。 「…クッソ。なんで、あんなちっさい子が…。」  苛つきを表情と口には出すものの、出雲は心を落ち着けると、一歩一歩慎重に対象との距離を詰めていく。 「宍道。…俺の反対側から回り込め。」 「了解。…回り込むとなると、少し時間かかるよ?」 「ああ。でも、出来るだけ早くな。」 「了解。」  出雲は対象を見つめながら、宍道に無線で指示を出すと、また、距離を縮めるよう進み出す。  先程ハイブリッドの戦いで見せたような派手な動きはないが、自分の気配さえ遮断させるような静の動きに、モニターで見るオペレーターも緊張感からかつばを飲み込む程だった。 「対象のロックはしてる。…地下以外なら、大丈夫だから。」 「了解。…見た感じ、地下穴が多いから、逃げられたら、最悪っすね。」  熊本に応答しながら、出雲は視線の先にいる少女を伺う。やはり何かに怯えているその態度は、いつでも逃げれるようにだろう、しきりに地下への穴を確認しながら、周囲の建物に入ろうか迷っているようだった。  空腹からだろうか。散乱しているゴミの山をゴソゴソと探る様子は、出雲に今までどうしてやることもできなかった、この現状への不快感にも似た感情を浮かび上がらせていた。  実際少女との距離は縮まってはいるが、捕まえるまでには至らない。焦れば好機を逃してしまうという、ジレンマを抱えながらも出雲は少女が動きを止め意識外に視線を外す瞬間を狙っていた。  全てに気を配りゆっくりと歩みを進めている出雲だったが間が悪い、運がなかったとしかいえない事象が起きてしまう。  自身の身を隠すようにしていたその建物が、パラパラっと瓦礫が上から降ってきたのを皮切りに音を立てて崩れてだしてしまう。自身が負荷をかけてはいない、ただ老朽化により崩れやすくなっていた建物が、それこそ間が悪い事に今になって時の無情さを現すように音を立て崩れたのだった。 「キャっ!…ダレ?!」  その音は、気配はなりかけの少女の耳にも直ぐに届いた。少女は瞬時に音が出る方向を振り返ると、周囲に何かいないか怯えるように問いかける。 「クっソッ!なんで、こんな時に!!」  出雲はやりようのない想いに、言葉を吐き捨てるが、少女も、返ってこない問いかけに、徐々に芽生えた恐怖心からか、警戒するように地下へと逃げ込もうとしていた。  その光景が目に入った出雲は、たまらず姿を現すと大声をあげ、少女を呼び止めた。 「止まってくれ!俺の言葉がわかるのなら待って欲しい!俺は、君を助けにきたんだ!」  懸命に少女に伝えようとする出雲の声が響く。その言葉が聞こえた少女は、一瞬立ち止まり出雲の方を振り向いた。  ただ、怯えるように身体を震わし、あちこちに視線を揺らす少女は、震える口先を噛むと出雲に声を返した。 「嘘ツキ!アタシを助けてクレタ人もコロされたよ!。みんな、ミンナ死んじゃったんだよ!」  悲痛な叫びと涙の浮かぶ顔を出雲に一瞬見せると、体を返し少女は地下穴に逃げ込むように逃げていく。 「待てって!!」  出雲も少女を呼び止めるように声を張り上げると、後を追うように地下穴に飛び込む。 「出雲君?!」 「潜ります!今追わなきゃ、絶対だめだ!」  オペの熊本に地下に入る前に最後の通信を返すと、出雲は逃げる少女を見失わないよう、薄暗く視界も悪い地下を走り出す。 「待って!危ないから、戻っておいで!」 「…イヤだ!…イヤだ!」  出雲が呼びかけても少女は涙を拭うように腕で目元を擦りながら、必死に逃げようと奥へ行こうと走り去る。出雲も声をかけながらも、身体能力の差で少女との距離を縮めるが、間が悪い事が続く。  反響した声のせいかはわからないが、本日2度めの崩落が出雲の目の前で起こると、土砂混じりの瓦礫が少女との距離を遮るように降り注いだ。足を止めざる負えない光景に、出雲は降り注ぐ瓦礫の中で少女の後ろ姿を呆然と見つめる。  助けたいと言う出雲の気持ちも届かず、なりかけの少女はどんどん奥へと逃げていくのだった。 「待てって!待ってくれって!!…ちっ、クソがーーーッ!!」  降ってきた瓦礫に苛立ちをぶつけるように、右足に履いた編み上げの安全靴で思いっきり蹴り飛ばすと、やり場のない怒りを声に出して表現する。しかし、少し俯いてしまった顔を即座に上げ、歯をギリっと噛み合わせた後、最後に少女に一声掛けるべく精一杯の声で叫んだ。 「俺はエレクトリカだ!!『』みたいに、君を殺したりは絶対しない!!俺は君を助けたいだけなんだ!…聞けよー、…話を…。」  出雲の呼び掛けにも、少女からの返答はない。  返ってこない返答に、色々な思いが交錯するが、ここで諦めるわけにはいかなかった。 『出雲!諦めんな!諦めれるのは立派に死ねた時だけだ!要するに、死ぬな!諦めんな!!』 「だーれーがぁぁー!諦めるかよッー!!」  出雲の心を揺らす声に応えるよう、奮い立たせた体と心をみなぎらせると、吐いた言葉と共に左手のバイブロハンマーを目の前に積もり上がった瓦礫に向けた。 「無理でも通る!アクティブ!!」  出雲はバイブロハンマーを起動させ、積もった瓦礫を広範囲に吹き飛ばす。実際、崩落する危険性の高い、ましてや今程崩れた外壁に振動型武器をぶつけるなど有り得ない行為だが出雲に迷いなどはなかった。  凄まじい振動はあたりを揺らしたが瓦礫の山に空いた大きな穴に出雲は即座に体を通すと奥へと進んでいった。 「聞こえるかい?…聞こえたら返事して。」  進みながらも先程までとは変わった優しい口調と声で問いかける出雲だったが、聞きたくはなかった返答が耳に届く。 「きゃー!やだ、嫌ぁぁぁッ!」  その少女が出したであろう悲鳴が地下道に響き渡ると、出雲は目を見開き慌ててその声のする方に走り出した。  明確にわかった少女の身の危険を知らせる合図と鳴り止まない足掻くような声に、全身から絞り出すよう足に力を込め駆け抜ける。そして、次に自分が見た光景に出雲は直様怒りを露わにする。  その目が捉えたのは少女の首を右手で軽々しく掴み上げる女の姿だった。  暗がりでも分かる金髪の髪は危険な性格を現すかのようにあちこちが疎らにトゲトゲと尖っており、顔をマスクで隠しているにも関わらず派手な化粧が焼き付くように浮かび上がる。その身を包む衣装も全身真っ黒な中に浮かぶ赤色が酷く目を引くと、タイトな衣装だがどこか刺々しい雰囲気を醸し出すパンキッシュな感じも女の持つ異質具合を現すには十分すぎた。  ギラギラと輝く野生の獣のような鋭い目つきは女の持つ明確な殺意を二人に伝えると、女はなりかけの少女の首を持つ右手に更に力を込め声を出した。 「はっはッー。…ようやく見つけたぜー。腐れハイブリッドまがいィ!手間ぁ取らすんじゃあ、ねーよ!」 「きゃ…が、ぁ…ぁ…。」  少女を極限に震えさせるその女はギリギリと徐々に締め付けていた右手の力を言葉が終わると同時に命を摘み取るよう締め付けようとする。 「やらせるかよッ!!」  少女の声にならない声が漏れる瞬間、出雲の怒号と共に両端がコードで繋がり電気を放つ2本のドライバーが女めがけて一直線に放たれる。 「…あぁん?」  出雲の声に反応するよう呟いた女だが声の方を振り向く素振りも見せない。  一直線に女めがけて飛んできたドライバーを後ろ向きのまま左手に持っていた大きめの日傘のような物を肩から後ろにまわし弾き飛ばす。カーンと金属同士がぶつかる音を立て、弾かれた飛来物は一瞬バチッと眩い閃光を発した後地面へ転がり光を失った。 「あぁん?…誰だ、てめぇ?あたしの邪魔すんじゃ、ねーよクソがぁ!」  女が問いかけるように呟いた後半身の状態で首を曲げ振り返るとようやく出雲と視線を合わす。その語尾を強調し大きくなった声に怒気を混ぜると、苛ついた態度で、宙に浮かしていた『なりかけ』の少女を投げ捨てるように地面に乱暴に落とした。 「…ぁっ。かはっ。」 「てめぇ!!」  少女から漏れた声、出雲の怒声にも女は自分には関係ないと言わんばかりの態度で、闇の中でもギラつく瞳から見るもの全てを恐怖に陥れるような殺意を撒き散らす。そして、出雲に向けて曲がった口角を見せつけると不気味に微笑み語りかける。 「てめぇ?…もしかして、腐れエレクトリカかぁ?」 「だったら、何だよ!クソ女!!」  女から問われた言葉に出雲は今にも飛びかかる勢いで言葉を返す。 「カッカ。ははぁ…丁度いいやぁ…。」  女は出雲の返答に短く笑い声を上げると鋭い目つきを更に尖らせ凝視すると意味ありげに舌なめずりをした。 「何が丁度良いかわかんねーが!俺は理に反すれば、女だろうがぶん殴るからな!!」 「オイオイオイ。差別発言だぜぇ。…女の子もきちんと対等に扱ってくれよぉ♡…あたしは、(つえ)ーえんだから、よぉおお!!」  出雲は左に装着したバイブロハンマーを女にかざし握り込むと威嚇するように言葉を返すが、女は相変わらずの舐めた口振りで自身の体を奇妙に揺らすと両腕で大げさにアピールしながら尚も威嚇するように言葉を返した。  若干膠着するような間が空くが出雲は自身の右目を閉じ対象を見つめると右手に振動型ナイフを持ち臨戦態勢になる。そして、短く小声でつぶやいた後に自身の力を誇示するよう大声で叫んだ。 「…わりーな。…俺は、()えーけどなッ!!!!」  出雲の声に女はわざとらしく自身の両目に右の手のひらを当て小さく笑うと、指の隙間から見える瞳を出雲に見せつけるようにして目を見開き怒気を放った。 「ハッアァ!カカッ。…まあ、殺る事は変わんねーんだ。…2人まとめて、あの世に、送ってやんよ!!」  女に半身の状態で、出雲はバイブロハンマーを装着した左腕を体の前に出すと、女は日傘のような物の尖った先端を出雲に向け身構えると、再度首を奇妙に傾け不気味に微笑んだのだった。
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